口腔病学会雑誌
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コレステリン投与ラットの組織学的研究とくに歯周組織の変化について
上野 和之
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1965 年 32 巻 4 号 p. 368-391

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抄録

1. Wistar系ラットを用い, 左側上顎臼歯抜去後, 次のように実験群を分け薬物投与を胃管により行なつた。
1) Ch.Cs.O.群: コレステリン, コール酸ソーダ, 大豆油
2) Ch.Cs.mT.O.群: コレステリン, コール酸ソーダ, メチルチオウラシル, 大豆油
3) Ch.mT.O.群: コレステリン, メチルチオウラシル, 大豆油
4) mT.O.群: メチルチオウラシル, 大豆油
実験期間は6カ月迄とし, おのおのの血中コレステリン値, 内臓, 下顎歯周組織, 下肢骨骨端部について観察した。
2. 血中コレステリン値はCh.Cs.mT.O.群で最も上昇し, 以下Ch.Cs.O., Ch.mT.O., mT.O.群の順であり, 6カ月ではCh.Cs.mT.O.群は対照群の約4倍, Ch.Cs.O.群は約3倍, Ch.mT.O.群は約2倍, mT.O.群は約1.2倍の上昇を示した。
3. 肝の脂肪化およびコレステリン浸潤はCh.Cs.mT.O.群で最も高度で, 以下Ch.Cs.O., Ch.mT.O., mT.O.群の順であり, 血中コレステリン値の上昇とほぼ平行していた。
副腎皮質の脂質ならびにコレステリンはCh.Cs.O.群で増加したが, 他の3群ではむしろ減少し, とくにCh.mT.O., mT.O.群6カ月では殆んど認められず, リポイドネフローゼ, 心筋脂肪沈着を示した例があつた。
メチルチオウラシルを投与した群の甲状腺は肥大し, 実質の増殖, 濾胞の縮小, コロイドの消失など高度の過形成像が認められた。
4. 歯周組織には炎症の増悪, 骨多孔性変化, 歯根膜線維の配列不正, セメント質の不規則な肥厚が見られたが, mT.O.群では対照群との差が明らかではなかつた。
炎症の増悪は一般に高コレステリン血症, 脂肪肝の明らかな例に見られたが, 血中コレステリン値の上昇, 肝の脂肪化の程度に必ずしも平行するとは限らなかつた。咬合側と対合歯抜去側の問に甚だしい差は見られなかつた。
骨多孔性変化は血中コレステリン値の上昇, 肝の脂肪化の程度に平行していた。また変化は咬合側の方が明らかであつた。
歯根膜線維の配列不正, セメント質の不規則な肥厚は局所的因子によつて影響される点が大であつた。
5. 下肢骨では石灰化軟骨基質の吸収昂進, 骨梁の形成障害が見られ, 変化は血中コレステリン値の上昇, 肝の脂肪化の程度に平行していた。また, 骨髄の脂肪浸潤はメチルチオウラシルを投与した群で明らかであつた。
6. 歯周組織や下肢骨骨端部に見られたこれらの変化は肝の脂質代謝異常における機能低下およびそれに伴う糖質や蛋白質の代謝異常などによつて惹起されたものではないかと思われる。

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