口腔病学会雑誌
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多変量解析法による下顎前突の遺伝学的研究
第1報因子分析法による検討
石黒 慶一
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1970 年 37 巻 4 号 p. 359-386

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抄録

下顎前突の成因の遺伝的要因と環境的要因の解明にあたって, まず, 多変量解析法の一方法である因子分析法によって, 顎顔面頭蓋の形態変異の様相の把握を試みた。
資料は, 下顎前突患者を発端者とする両親, 同胞からなる50家族193名の側貌頭部X線規格写真を用い, 顎顔面頭蓋形態を多変量として把えるため, 各々の側貌頭部X線規格写真上に30計測点を設定し, これらの計測点の基準X軸, 基準Y軸からの座標値を求め, 年齢差, 性差の補正を行なった後, BMD-X72のプログラムにより因子分析を実施した。
その結果, 次のような所見を得た。
1.顎顔面頭蓋の形態変異には, 主として次の10個の因子が関与していることがわかった。
第1因子: 上顎骨長径関与因子
第2因子: 下顎骨長径関与因子
第3因子: 下顎骨下顎枝部高径関与因子
第4因子: 上顎骨歯槽口蓋部高径関与因子
第5因子: 脳頭蓋底中央部高径関与因子.
第6因子: 脳頭蓋底長径関与因子
第7因子: 下顎骨歯槽部高径関与因子
第8因子: 脳頭蓋底前部高径関与因子
第9因子: 上・下顎骨歯槽部長径関与因子
第10因子: 上顎骨上顎洞部高径関与因子
この結果, 顎顔面頭蓋の複雑な形態変異が10個の因子によって総合的に認識できることがあきらかとなった。
2.顎顔面頭蓋の形態変異において, 下顎骨の形態変異と上顎骨のそれとの間には, 因子負荷の大きさの程度からみて, 相互作用がみられず, 明らかに異なる変異のパターンをもつものであった。これは, 下顎前突の形態変異の特徴の把握, その成因の解明に手掛りとなるものと示唆された。
3.上・下顎骨では, それぞれにおいて高さと長さの変異は, 歯槽部を除くと, 明らかに異なる変異を示した。
4.上・下顎骨の歯槽部の変異は, 相互に密接な関係がみられた。
5.顎顔面頭蓋の形態分析において, その変異を総合的に多変量としてとらえることは, 下顎前突のような顎顔面頭蓋の形態異常の成因に関する分析に有効な手段となりうることが示唆された。

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