38 巻 (1971) 1 号 p. 73-93
本教室では, 1965年以来悪性腫瘍の本態解明のため組織培養法を応用し, in vitroにおいてもin vivoの特性を保持しているといわれている初代培養細胞を検索し, その成果の一端を発表してきた。本研究において, 著者は口腔領域各種非腫瘍ならびに腫瘍組織の初代培養を行ない, その由来組織を同定するために, 培養初期の各種細胞について, 形態的特徴の観察と, またこれらのうち, 良好な増殖を示した培養例については, その染色体の検索をも併せて行なった。
研究材料は東京医科歯科大学歯学部付属病院口腔外科を受診した患者84症例の手術摘出物, 試験切除片より得られた。そのうちわけは, 口蓋裂部粘膜などの非腫瘍組織29例, エナメル上皮腫, 多形性腺腫などの良性腫瘍組織25例, 扁平上皮癌などの悪性腫瘍組織30例であった。培養法は直接カバーグラス法により, 培養液として199液とEagle MEMを用い, 37℃のCO2培養器で培養した。
遊出細胞の形態的観察は, 位相差法およびギムザ染色を主体とした染色標本を用いて行なった。染色体標本の作製は, これら初代培養細胞をコルヒチン処理, 水処理の後に空気乾燥法により行なった。
非腫瘍組織よりの遊出細胞は, ほぼ均一な上皮様の形態を示し, またその配列も比較的一定であった。これらの培養例について, 染色体を比較的十分に検索し得たのは5例で, その染色体数は46を中心に分布していた。
良性腫瘍組織よりの遊出細胞は, 形態的にそれぞれの母腫瘍実質の構成細胞をうかがわせる所見を呈した。これらの培養例について, 染色体を比較的十分に検索し得たのは, エナメル上皮腫3例, 多形性腺腫2例, 粘表皮腫1例の計6例であった。これらの染色体数の分布状態は, 非腫瘍例とほぼ同様であったが, 異数性細胞が非腫瘍例に較べやや増加していた。
扁平上皮癌よりの遊出細胞は, 遊出の初めより細胞の異型性に富み, 異常な核形態, 核分裂像を示すなど悪性腫瘍細胞の特徴を示した。これら扁平上皮癌の培養例について, 比較的十分に染色体を検索し得たのは3例であった。その染色体数の分布状態は, 非腫瘍例に較べ, 変異の幅が広く低2倍域から4倍域にわたっていた。すなわち, 下顎歯肉癌の2例では, 低2倍域の細胞が多かったが, 4倍性細胞も出現した。上顎癌の1例は高3倍性細胞が最も多かった。