口腔病学会雑誌
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唇顎口蓋裂患者の歯牙疾患に関する臨床的研究
―特にエナメル質形成不全症について―
愛甲 勝彦
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1976 年 43 巻 4 号 p. 509-548

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抄録

顎顔面領域裂奇形が歯牙の形成および歯牙疾患に及ぼす影響を明らかにするために, 唇顎口蓋裂患者と3歳対照健常児の乳歯および永久歯について歯質異常, 歯牙疾患の実態を検索し次の結果を得た。
対象は唇顎口蓋裂患者275名, 乳歯2, 511歯, 永久歯617歯と対照群として3歳児検診者62名, 乳歯1, 029歯である。唇顎口蓋裂患者におけるエナメル質形成不全症罹患者率は80.4%, 罹患歯率は乳歯25.2%, 永久歯19.5%で対照群より有意差をもって高い発症頻度であった。エナメル質形成不全症の発現様式は少数歯性68.8%, 多数歯性31.2%であり, 片側および両側唇顎口蓋裂群で少数歯性が多く, 口蓋裂群で多数歯性の比率が高かった。多数歯性形成不全の好発部位は乳前歯歯頸部 (63.8%) と乳前歯中間部 (21.7%) であり, 発症時期は出生時から乳幼児期が多いものと推定された。少数歯性形成不全の好発部位は乳歯C歯頸部 (12.5%) Aの切縁部 (10.7%) と歯頸部 (7.7%) , Cの歯頸部 (9.2%) , 永久歯上顎前歯部の切縁, 中間, 歯頸部であり, その発症時期は上顎乳前歯では胎生期その他の乳歯では乳幼児期永久歯では幼児前期がそれぞれ多いものと推定された。顎裂をともなった症例ではA切縁部の発症頻度が特に高く, 上顎乳前歯破裂側で非破裂側より形成不全が多かった。
著者の臨床型分類によれば破裂群多数歯性では1度40.6%, III度33.3%, II度18.8%, V度5.8%, IV度1.4%, 少数歯性では1度54.0%, V度14.6%, II度12.3%, III度11.9%, IV度7.3%であり, 多数歯性の乳前歯歯頸部にIII度1度, 中間部にI度II度が多く, 少数歯性では片側および両側唇顎口蓋裂群のA切縁部にV度が多いのが特徴的であった。各臨床型についてmicroradiogramを観察したところ齲蝕および斑状歯とは異なった所見であった。既往症を調べたところ発症誘因として哺乳障害, 体重増加不良が考えられたが口唇形成手術, 口蓋形成手術の時期に相応して発現しているものも多かった。唇顎口蓋裂患者の齲蝕罹患者率, 罹患歯率, 平均齲歯数, 平均処置歯数を乳歯。永久歯にわけて調査し, 3歳児対象群および昭和50年厚生省歯科疾患実態調査と比較したところ, 齲蝕罹患者率 (乳歯71.9%, 永久歯57.7%) には差がなかったが, 全症例で乳歯平均齲歯数 (4.96歯) , 平均処置歯数 (1.59歯) が多く, 3歳児では平均齲歯数が多く, 平均処置歯数が少なかった。齲蝕型は厚生省分類B型, 医歯大小児歯科分類皿型が多かった。永久歯歯牙萌出順序は片側および両側唇顎口蓋裂群で6-1-6-2-1, 口蓋裂群で6-1-6-1-2の傾向であった。過剰歯は全症例中11歯, 癒合歯は8例みられた。

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