口腔病学会雑誌
Online ISSN : 1884-5185
Print ISSN : 0300-9149
食品中の酸による歯質の脱灰について
市丸 展子中島 博子
著者情報
ジャーナル フリー

1977 年 44 巻 4 号 p. 357-362

詳細
抄録

食品中の酸が歯質をおかし, 種々の歯牙疾患の原因となりうることは, すでに指摘されているところである。また, 象牙質知覚過敏症の症状が, 酸を含む食品の摂取量に密接な関係があることも知られている。酸の摂取量が増すと症状は亢進し, 摂取中止後は軽減する。これは歯と唾液の間に存在するカルシウムの動的バランスとして捕えることができる。そこで食品中の酸が歯質に及ぼす影響を知るため, 次の実験を行った。
1.5種の果汁, 3種の酸を含む飲料, および8種の酸溶液を, 0.1規定NaOHで滴定した。pHの推移は, ガラス電極pHメーターにて測定した。
試液のpHはいずれも2.5前後の値を示した。柑橘類果汁では, ヒトが感じる酸味の順位と, その果汁を中和するのに要する0.1規定NaOHの量の順位とが一致した。
2.抜去永久上顎前歯の歯冠部を, 次の試液に合計9分間浸した (コーラ飲料, 食酢, レモン果汁, 0.1Mクエン酸溶液, 10%乳酸溶液) 。溶出したカルシウムの量は, 原子吸光装置にて定量した。
抜去歯歯冠部より溶出するカルシウムの量は, コーラ飲料と食酢の結果が逆になっている点をのぞき, 試液のpHが低いほど大であった。
食品を摂取する時には, 唾液の緩衝, 洗滌作用をはじめ, 食品が口腔内に滞在する時間あるいは摂取方法などが, 脱灰量に影響を与えうる。
歯質の脱灰能を示す指標としては, 試液の最初のpHではなく, 中和に要する塩基の量が望ましい。

著者関連情報
© 口腔病学会
前の記事 次の記事
feedback
Top