口腔病学会雑誌
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長鼻類の歯の比較組織学
小沢 幸重
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1978 年 45 巻 4 号 p. 585-606

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抄録

長鼻類の系統発生に沿って, Mastodon, Stegodon, Elephasの各進化段階の臼歯におけるエナメル質組織を走査電顕的に比較観察し, 臼歯形態および咀嚼機能の変化との相関性を検討した。エナメル質組織を比較するについては, 臼歯矢状断面におけるシュレーゲル条が明瞭である層を中層とし, それから象牙質側を深層, エナメル質表面側を表層として3層に区分し, 各層ごとに検討した。
深層エナメル質には, エナメル象牙境に接して無小柱エナメル質の層が認められ, 中層に近い部分では広い小柱間エナメル質で隔てられた大きさの一定しない円形および半円形のエナメル小柱の断面形態が認められた。表層エナメル質においては, エナメル質表面近くが無小柱エナメル質であり, 大きさおよび形が一定しないエナメル小柱の断面の輪郭が認められた。これらの組織像は, 各長鼻類に共通であった。
中層エナメル質においては, Mastodon段階ではヒトの鍵穴形のエナメル小柱と形および大きさが同様であり, Elephas段階では横幅が鍵穴形の約2倍あるイチョウの葉形のエナメル小柱であった。Stegodon段階には, 両者の型が認められた。これらのエナメル小柱の断面形と臼歯形態との関連から次のことが推定される。
長鼻類の最も原始的なMoeritheriumからMastodon段階の臼歯へと, 約3, 000万年の間に進化したが, その変化は, 雑食性 (omnivorous) の特徴である鈍頭歯および短冠歯の形質を保ったまま, 歯冠の体積が約70倍になるという巨大化したものである。この臼歯形態の変化においては, エナメル芽細胞数の増加によって歯冠の巨大化が補われたと推定できる。次の, MastodonおよびStegodon段階からElephas段階への進化は, 約2, 000万年弱の間に植物食性 (herbivorous) の特徴である隆線歯, 長冠歯の臼歯となり, 歯冠ヒダおよび歯冠セメント質が著しく発達し, 歯冠の体積は約3~4倍となったものである。このような臼歯の急速な複雑化において, エナメル芽細胞は, 数の増加に加えて形態的な変化を伴って補わねばならなかった。この結果, イチョウの葉形のエナメル小柱が形成されたものと考えることができる。

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