主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 43
【はじめに,目的】
大腿骨頸部骨折の骨折形態はGarden分類が良く用いられる.GardenIIIは,大腿回旋動脈の損傷により,骨癒合の遅延や骨頭壊死・偽関節を生じる可能性があり,一般的に人工骨頭置換術(以下,BHA)が施行される.しかし,活動性の高い中年期のBHAは,再置換や動作の制限が問題となる.今回,高エネルギー外傷でGardenIIIを呈し,骨接合術後にしゃがみ動作獲得し仕事復帰できた症例を担当したのでここに報告する.
【症例提示】
50歳代後半,男性,既往歴なし.現病歴は,仕事中に二階の屋根から転落し当院救急搬送.診断としては,左大腿骨頸部骨折(GardenIII)と骨盤骨折(保存)にて手術目的で入院.術前より理学療法開始し,入院3日目で骨接合術(TresLock)施行.受傷前歩行は独歩.仕事は瓦屋.
【経過】
術翌日では,疼痛は,体動時や術創部周囲・骨盤部にNRS6,膝関節屈曲80°以上でNRS6.痺れ・感覚障害なし.ROMは左股関節屈曲80°,外転10°.MMTは,左股関節屈曲3,外転3.術翌日から部分荷重開始.術後2週では,疼痛は,股関節周囲NRS5,左膝関節屈曲110°以上でNRS4.ROMは左股関節屈曲90°,外転20°.MMTは,左股関節屈曲3,外転3.日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(以下,JHEQ)は84点中14点で,その内しゃがみ動作と立ち上がり動作は4点中0であった.平行棒内歩行又は歩行器自立にて回復期リハビリ病院に転院となった.術後3ヶ月転院先を退院し自宅復帰.診察にてXpにて骨癒合不十分で遷延治癒傾向にあった.骨密度検査にて骨密度が低下しており,テリパラチドの使用開始.当院外来リハビリ再開.疼痛は,しゃがみ動作時や踏み込む際にNRS3.ROMは左股関節屈曲90°,外転20°.MMTは,左股関節屈曲4,外転4.独歩自立.10m歩行は7.6秒,TUGは9.0秒,Berg Balance Scale Score(以下,BBS)は54点,JHEQは50点で,その内しゃがみ動作2点と立ち上がり動作は2点であった.術後5ヵ月にてXp仮骨形成良好.ROMは左股関節屈曲120°,外転30°.MMTは,左股関節屈曲5,外転5.独歩自立.疼痛は,しゃがみ動作時や踏み込む際にNRS1.10m歩行は5.2秒,TUGは7.3秒,BBSは56点,JHEQは78点で,その内しゃがみ動作と立ち上がり動作は4満点であった.リハビリ終了し仕事復帰した.
【考察】
中年期のGardenIIIに対して骨接合術を施行し,しゃがみ動作を獲得し,仕事復帰することができた症例の理学療法を経験した.仕事復帰にあたって,職業は瓦屋でしゃがみ込んだ状態での作業ができることが必要不可欠であった.今回,しゃがみ動作を獲得できた理由の1つとして骨接合術であったことが考えられる.BHAは関節面が元々の構造と異なり,脱臼リスクもある.佐井らによるとBHAのしゃがみ込み動作不能者は全体の62.5%を占めていると報告している.また,しゃがみ動作の獲得に関しては,司馬らは股関節手術における日常生活動作のしゃがみこみ動作において関節可動域を股関節110°以上,外転30°以上必要であると報告している.本症例も上記の可動域を獲得しており,その上実際の作業に近い動作でも,動作時痛もなかったことからもしゃがみ動作獲得出来たのではないかと考えた.最後に本症例の股関節能力に対する満足度として,JHEQの動作項目である「しゃがみ動作が困難である」「床からの立ち上がり動作が困難である」に対して「全くそう思わない」という回答を得た点でもしゃがみ動作獲得の満足度は高いと考えた.
GardenIIIに対する手術療法は様々であるが,過去の報告を参考にしながら,症例の活動度をなるべく阻害しないような理学療法を展開していく必要がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
症例には本報告の趣旨を十分に説明し,同意を得た.学会で症例報告を行うことに対して,所属施設長の承認を得た.また,本報告による利益相反の開示事項はない.