九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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脳卒中後重度痙性麻痺者に対する介入効果
~電気刺激併用ストレッチによる即時効果の検証~
*中原 寿志*黒木 裕亮*迫間 亮汰*大竹 英次*柚木 直也
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p. 77

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抄録

【目的】

脳卒中後症例の多くは痙縮を合併し、理学療法を進めるうえでの阻害因子となることが多く、介護が必要な場合であっても介護負担が増えることが問題となる。

痙縮に対する基本的運動療法としては、Ib抑制メカニズムを考慮した痙縮筋の持続的伸張(以下:ストレッチ)と、痙縮筋と拮抗する筋の収縮を促す相反性抑制により痙縮を軽減することが報告されている(内山ら)。痙縮筋と拮抗する筋への電気刺激は相反性抑制が増強することで痙縮が減弱するとされている。両者の介入とも、随意運動と併せて行うことで痙縮に対してより高い効果が得られる可能性があるとされている(Schuhfried)。

今回、重度痙性麻痺を呈し、分離運動を促すような随意収縮困難症例に対し、ストレッチ(Ib抑制)と電気刺激(相反性抑制)による併用効果の検証を行うことを目的とし、痙縮抑制の即時効果をストレッチのみ介入と比較した。

【方法】症例は左被殻出血を呈した70歳代男性。Brunnstrom Recovery Stage:上肢III、手指III、Fugl-Meyer Assessment上肢項目:8点、Modified Ashworth Scale:3で、常に右肘関節屈曲位で伸展制限を認めていた。ABAB型デザインで各期5日間ずつ介入し効果検証を実施。A1期A2期は上腕二頭筋へのストレッチを5分間実施、B1期B2期は上腕二頭筋ストレッチと上腕三頭筋への電気刺激を併用(以下FESストレッチ)して5分間実施。電気刺激パラメータは周波数30Hz、パルス幅300μs、10秒on(ランプアップ:3秒)/10秒offに設定し、上腕三頭筋モーターポイントへ電極貼付、不快なく筋収縮を認める強度で刺激した。肘関節の関節可動域検査(Range of Motion Test以下ROM-T)をメインアウトカムとし、各介入前・後(以下Pre・Post)に静止画を撮影、Image Jを用いて角度算出を行った。統計的解析は対応のあるt検定、2標本t検定を用いて、p<0.05を有意とした。

【結果】ベースラインを各期のPre ROM-Tで評価、A1期:120.1±8.56°→B1期:110.3±14.26°A2期:111.4±5.42°→B2期:97.9°±6.51°で、A1期とB1期の比較のみ有意差を認めなかった(p=0.23)。肘関節ROM-T(Pre→Postの順で記載)A1期:120.1±8.56°→81.3±6.85°(p<0.05)、B1期:110.3±14.26°→70.8±5.81°(p<0.05)、A2期111.4±5.42°→85.6±3.72°(p<0.05)、B2期:97.9±6.51°→68.6±6.07°(p<0.05)であった。ROM-Tの変化量はA1期:38.6±12.87°→B2期:39.4±18.73°(p=0.94)、A2期:25.8±5.64°→B2期:29.3±9.81°(p=0.51)で有意差を認めなかった。

【考察】両介入ともに即時効果は見られたが、痙縮抑制効果の顕著な差は認めなかった。本症例は重度運動麻痺を呈しており、随意収縮による相反性抑制が困難な症例であったため、電気刺激による相反性抑制効果が少なかったことが考えられ、FESストレッチによる痙縮抑制効果を発揮させるには、痙縮筋に拮抗する筋の随意収縮が認められる症例で適応となる可能性が示唆された。

【まとめ】重度痙性麻痺症例へストレッチとFESストレッチの即時効果検証を試みた。痙縮抑制効果は両介入ともみられ、介入方法による即時効果の差は見られなかった。FESストレッチは分離運動が見られている症例の痙縮に対して適応となる可能性が示唆された。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は,宮永病院施設長の承認を得て行ったものである.ヘルシンキ宣言に基づき,演題発表を行うにあたりご本人に十分な説明を行い,書面による同意を得た.また,主発表者及び発表責任者には,開示すべき利益相反関係にある企業等はありません.

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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