主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 111-
【はじめに・目的】 我々は、足指把持力の評価において懸念すべき点を考慮した「立位での足指圧迫力」の評価方法を考案した。これまでに、筋力評価としての妥当性(釜﨑,2020)や転倒リスクを判別する臨床的有用性を報告してきた(釜﨑,2020)。しかし、足指の筋力評価において、どちらがより有用な評価方法なのかは明らかにされていない。そこで本研究の目的は、足指把持力と立位での足指圧迫力のどちらが重心移動能力と関係するのかを検証し、足指筋力のより有用な評価方法を示すこととした。ひいては、重心移動能力の向上を目的とした理学療法に寄与すると考える。
【方法】 本研究は横断研究である。対象は、某大学のリハビリテーション学部生とした。リクルートは呼びかけおよびチラシの掲示で行った。なお、対象者の中に国内外トップレベルの競技者はいなかった。重心移動能力は、重心動揺計を用いて、A-P軸の最大重心移動距離によって評価した(Fukuyama K, 2013)。立位での足指圧迫力は、足指押力測定器を用いて評価した。踵は浮かさず、足指で床を圧迫するように力を入れることを指示した。なお、測定時の重心移動は許可しているが、機械の特性上垂直方向に足指で力を加えないと測定値は上昇しない構造になっている。また、足指把持力、握力、膝伸展筋力、navicular dropも評価した。統計処理は、各測定項目の相関をPearsonの相関分析で検討した後、重心移動能力を従属変数とした重回帰分析を実施した。model 1は立位での足指圧迫力と足指把持力を独立変数に投入し、model 2では共変量と考えられる変数を投入し交絡を調整した。重回帰分析の必要サンプルサイズは、効果量“large”、αエラー0.05、検出力0.8、独立変数6に設定した結果46名であった。
【結果】 分析対象者は、必要サンプルサイズを満たす成人67名(19±1歳、男性64%)であった。相関分析の結果、重心移動能力と有意な相関があったのは立位での足指圧迫力のみであった(r=0.36, p=0.003)。次に、握力、膝伸展筋力、性別、年齢で調整した重回帰分析の結果、重心移動能力には立位での足指圧迫力のみが関係した(標準回帰係数:0.42, p=0.005)。
【考察】 足指把持力は、バランス能力に関係しないと報告されており(Uritani D, 2016, Yamauchi J, 2019)、同様の結果が示された。一方、重心移動能力と立位での足指圧迫力には有意な相関があった。したがって、重心移動能力には足指把持力よりも立位での足指圧迫力の方が寄与しているという我々の仮説が支持された。重回帰分析では、立位での足指圧迫力のみが重心移動能力と有意に関係することが明らかになった(model 2)。この結果は、動員される筋が異なるためであると推察する。足指把持力は外在筋の筋力を反映する(Uritani D, 2016)が、立位での足指圧迫力は内在筋を評価していると考える。つまり、立位での足指圧迫力は、よりバランス能力を捉える内在筋を評価していることから、重心移動能力に関係したと推察する。本研究によって、健康成人の重心移動能力には、足指把持力よりも立位での足指圧迫力が関係し、立位での足指圧迫力を評価する臨床的有用性が示された。ひいては、立位での足指圧迫力を増強することで、重心移動能力を向上させる可能性が示唆された。
【説明と同意、および倫理的配慮】 対象者には、研究の内容と目的を説明し、理解を得たうえで同意を求めた。本研究への参加は自由意志であり、参加を拒否した場合でも不利益にならないことを説明した。また、対象者は大学生であったため、成績には影響しないことを説明した。本研究は西九州大学倫理審査委員会の承認(21HUR23)を得て実施した。