九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題10[ 骨関節・脊髄③ ]
重度拘縮肩に対する理学療法での肩関節機能の改善状況
O-055 骨関節・脊髄③
辛嶋 良介井原 拓哉川嶌 眞人
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p. 55-

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抄録

【はじめに】 拘縮肩は関節包や靭帯の肥厚や短縮による疼痛と可動域制限が主症状となる。臨床での遭遇頻度は高いが、理学療法診療ガイドラインでのエビデンスは非常に弱いとされている。そこで、本研究では重度の拘縮肩に対し、理学療法を中心とした保存療法による肩関節機能の改善状況やその特徴について調査した。なお、対象者へはヘルシンキ宣言に基づき口頭にて趣旨と内容について十分説明し、同意を得た。

【対象と方法】 対象は、2016年12月から2021年5月の期間、明らかな外傷や石灰沈着性腱炎、腱板断裂などの概知の病態を除外した拘縮肩23名23肩のうち、肩関節可動域が屈曲100°以下、下垂位外旋10°以下、結帯での母指到達脊椎高(以下、scratch)が第5腰椎レベル以下とした包含基準を満たし、定期の肩関節機能評価が行えた11肩(うち男性3肩)とした。平均年齢は52.8歳(44-70歳)であり、糖尿病や甲状腺疾患の合併例はなかった。

 肩関節機能評価は肩関節の屈曲、下垂位外旋の他動可動域と自動挙上角度、scratchを計測し、患者立脚肩関節評価法Shoulder 36 V1.3(以下、SF36)を評価した。他動可動域の計測は、臥位で可能な限り疼痛を軽減させるように配慮し、scratchでは到達脊椎高が第12胸椎を12、第1腰椎を13とした数値に変換した。これらは、開始時と終診時の値を抽出して分析に用いた。

 治療では適宜消炎鎮痛剤の内服や関節内注射を実施しており、理学療法では上腕骨頭の関節包内運動を誘導しながら可動域の拡大と代償を含めた自動挙上角度の拡大を目標として徒手療法や自動介助運動を実施した。

 統計学的分析はR2. 3. 1を使用し、開始時と終診時での各指標の相違について対応のある差の検定を行い、効果量(Cohen’s d)を算出した。また、治療期間と終診時の各指標との相関分析を行った。いずれも有意水準は5%であった。

【結果】 治療期間は平均173.0日であった。開始時と終診時の平均値(標準偏差)は、屈曲88.6(8.8)°が139.1(14.0)°、下垂位外旋3.2(5.3)°が27.3(12.9)°、自動挙上角度85.0(13.3)°が137.3(15.6)°、scratch18.1(0.5)が14.3(0.5)といずれも有意に改善し(p<0.01)、効果量は0.6~1.5であった。また、SF36は疼痛2.6(0.6)点が3.4(0.4)点、可動域2.5(0.7)点が3.3(0.4)点、筋力1.4(0.9)点が2.8(0.8)点、健康感3.0(0.6)が3.7(0.2)点、日常生活機能2.8(0.7)点が3.7(0.3)点、スポーツ能力0.6(0.7)点が2.4(1.0)点といずれも有意に改善し(p<0.01)、効果量は0.5~0.6であった。相関分析では治療期間と下垂位外旋(p=0.01, r=0.71)、scratch(p=0.04, r=-0.64)に有意な相関関係を認めた。

【考察】 自験例では当初の可動域やSF36が非常に低値であることで統計学的な差が生じやすかった可能性もあるが、可動域、SF36とも効果量は中等度以上であった。しかし、約170日という短期間の介入であるが屈曲と自動挙上角度の効果量が顕著に大きかったことから、挙上方向の運動は可動域自体の改善に加え、代償運動も加わることで日常生活動作の改善に大きく寄与していると考えられた。一方、回旋のように肩甲上腕関節の運動が高い割合を占める運動では制限が強く残存すると考えられ、治療期間と最終時の可動域が中等度以上の相関を認めることから、根気強い治療を要することが改めて示された。いずれにしても、終診時にはSF36における各項目は比較的高値であり、代償を含めた動作が可能になることで日常生活の改善が得られるものと推察された。

【結語】 重度拘縮肩に対する理学療法を中心とした保存療法では、肩関節機能は中等度以上の効果量で改善するが、特に回旋可動域の改善は不十分であった。

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