九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題18[ 教育・管理運営① ]
大規模災害の被災経験の有無による理学療法専攻学生の災害に関する価値意識の違い
O-099 教育・管理運営①
佐藤 亮
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p. 99-

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抄録

【目的】 理学療法士は医学、看護学、歯科学等と比較し、養成校在学中に災害に関する教育を受ける機会は極めて少ない。今回2地域の理学療法士養成校で、地域理学療法学のシラバス終盤で初めて災害理学療法の講義を取り入れることになり、筆者はその授業を担当する機会を得た。本研究の目的は、大規模災害の被災経験の有無による理学療法専攻学生の災害に関する価値意識の違いを明らかにすることである。

【方法】 対象は、機縁法によって研究協力の承諾を得た熊本県(以下、熊本)及び大阪府(以下、大阪)内の4年制理学療法士養成校の3年生とした。熊本29名(20.7±0.5歳)は、全員が熊本地震による被災経験があり、大阪93名(20.8±0.5歳)は、全員が大規模災害による被災経験はなかった。評価は、熊本は2022年12月、大阪は2023年1月に、災害理学療法の講義受講前の段階で行い、後述する評価を同じ順番で行った。災害に関する学生の心理的側面の評価として、災害リハビリテーションに関するアンケート調査(6項目・6件法)、一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)、価値意識の評価として、災害リハビリテーション基本用語テスト(20問:100点)、事例対応問題(1事例:10点)を行った。災害リハビリテーション基本用語テスト及び事例対応問題は、熊本地震、2019年東日本台風、2020年7月豪雨においてJRAT現地災害対策本部運営経験のある筆者を含む3名の理学療法士で作成した。熊本と大阪のアンケート調査結果、GSES得点、基本用語テスト問題得点、事例対応問題得点の比較には、Mann-WhitneyのU検定、基本用語テストの各設問正答数の比較には、カイ二乗検定を用い解析を行った。有意水準は5%とした。

【結果】 結果を中央値と四分位範囲で示す。アンケート結果は、全項目で有意差を認めなかった。GSES総得点は、熊本7.0(4.5-9.0)点、大阪4.0(2.0-8.0)点で有意差を認めた(p=0.007)。基本用語テスト得点は、熊本15.0(10.0-20.0)点、大阪10.0(10.0-15.0)点で有意差を認めた(p=0.004)。基本用語のうち、JRAT(p<0.001)、エコノミークラス症候群(p=0.002)で有意差を認めた。事例対応問題得点は、熊本2.0(0-5.0)点、大阪1.0(0-2.0)点で有意差を認め(p=0.030)、下位項目のうち考えられる健康被害(p=0.047)、福祉用具に関する対応内容と理由(p=0.007)について有意差を認めた。

【考察】 東日本大震災を経験した宮城県の人々は、東京都や大阪府の人々と比べて災害自己効力感が高い。熊本は、全員が中学時代に熊本地震で被災し、その内65.5%の学生が避難所生活を経験している。熊本のGSES得点が高かったのは、熊本地震からの生活再建等を通した達成経験が自己効力感の差に繋がったと推察される。また基本用語及び事例対応問題の得点差は、被災経験に加え災害情報量の差が影響したと考えられる。当時の熊本県内では健康被害等の災害情報についてソーシャルメディアを通じて容易に取得できる環境であり、熊本地震では関係するツイートは発生から1週間で、東日本大震災直後の20倍を超えていた。JRATに関しては、初の大規模災害での全国的支援活動を展開した。エコノミークラス症候群に関しては、車中泊の避難者が死亡し、その翌日からマスメディアで繰り返し報道されたことが原因であると思われる。大規模災害の被災経験の有無は、学生の自己効力感や災害リハビリテーションに関する基本用語及び避難所における事例対応に関する知識に影響を与えることが示唆された。今回の授業前の学生の評価結果を含め今後さらに検証を重ね、より効果的な災害理学療法教育方法を開発したい。

【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、調査に関しては事前に書面および口頭で研究の目的を説明し、理解を得た上で同意を得た。

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