九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O13-4
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セッションロ述13 スポーツ・健康3
2種類のDYJOCトレーニングでの足圧中心総軌跡長の変化量の相違
吉野 温翔辛嶋 良介橋本 裕司川嶌 眞人
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抄録

【はじめに】 動的関節制動トレーニング(Dynamic Joint Control Training:以下、DYJOC)は関節構成体の各組織にあるメカノレセプターによって収集された情報が、中枢神経を経て運動を制御する各部位に到達する一連の機能を促進するトレーニングである。神経と運動器が協調し、外乱刺激に対する姿勢制御の反応速度が向上することで治療対象の関節を動的側面から保護することによる障害予防が期待できる。当院では膝前十字靱帯損傷に対する運動療法で積極的にDYJOCを実施している。しかし、DYJOCとされる運動の種類は様々であり、運動の種類による効果の違 いは不明である。 本研究の目的は、足趾運動に着目した運動と全身運動を伴う運動の2種類のDYJOCにより、片脚スクワット動作中の足圧中心総軌跡長の変化量に相違があるかを調査した。 【対象と方法】 対象は、下肢関節に既往のない健常成人20名 (男性10名、女性10名)であり,平均年齢は26.1±3.6歳、平均BMIは22.1±2.2kg/m2であった。方法は、課題動作を片脚スクワット動作とし、口頭で3秒かけて膝関節屈曲50°まで屈曲し、3秒かけて立ち上がるように指示をした。この動作を床反力計(アニマ社)の上で行わせ、DYJOC前後で足圧中心総軌跡長を計測した。DYJOCは座位で足趾を屈曲させタオルを手繰り寄せる運動を100回行うタオルギャザー群 (タオル群)と半円板のDYJOCボード上で膝関節屈曲位にて片脚立位保持を行う運動を15秒行った後、60秒休息を3セット行うDYJOCボード群 (Dボード群)とした。対象者のタオル群、Dボード群への振り分けは無作為に男性女性の人数が同数になるようにした。統計解析はR2.8.1を用いて、2群間でのDYJOC前後の足圧中心総軌跡長の変化量を比較するために2標本の差の検定を用いた。有意水準は5%とした。 【結果】 タオル群の足圧中心総軌跡長はDYJOC前で平均29.1±4.7cm、DYJOC後で平均26.7±6.4cm、変化量は平均-2.6±4.1cmであった。Dボード群の総軌跡長はDYJOC前で平均27.7±4.5cm、DYJOC後で平均25.4±6.4cm、変化量は平均-2.3±4.2cmであった。両群ともDYJOC後での総軌跡長は減少しており、2群間で変化量に、有意差は認めなかった。 【考察】 山中らは立位保持において足圧中心総軌跡長が長いほど重心動揺が大きく不安定と評価されると述べている。片脚スクワット動作では、狭い支持基底面内に重心を収めながら身体重心を上下移動する姿勢制御が求められる。臨床場面では側方へ動揺しながら動作を遂行し、時にバランス反応によりステップ動作を伴う患者も散見される。そのような動揺を伴うと足圧中心総軌跡長が延長することは容易に想像できる。本研究では足趾運動と全身運動の姿勢制御の課題である運動のいずれにおいてもDYJOC後の片脚スクワット動作で足圧中心総軌跡長が減少したことは、動作の安定性が向上したと捉えることができる。これらより、DYJOCの運動課題の提示には患者の状況に応じて選択することでも効果が期待できると考えられた。つまり、受傷後急性期など荷重制限がある時期では、足趾運動を選択することでも、姿勢制御の改善が期待できる可能性がある。一方、動作に直結した姿勢制御の改善を図る場合はDYJOCボードなど多関節の協調性を要する運動課題が選択されると考えられた。 本研究は健常者を対象としていたが、今後は膝前十字靭帯損傷患者での効果を検証する必要がある。 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言による倫理的配慮に基づいた研究であり、すべての対象者には十分な説明による同意を得られて実施した。

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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