九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: P8-3
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セッションポスター8 骨関節・脊髄3
交通外傷に伴う大腿骨骨幹部骨折の骨接合術後に,外側広筋に巨大な異所性骨化を認めた若年男性の1症例
渋谷 翔大山崎 拓実清水 吾朗首藤 武古賀 祐美子村中 一喜岡 洋右
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抄録

【目的】異所性骨化は外傷性,麻痺性,特発性に分類され,軟部組織の骨化を認める疾患であり,好発部位は肘関節・股関節周囲とされる.また,その後の治療としては,保存療法または6~12ヶ月後に骨化が成熟した後の外科的切除が挙げられる.保存療法および術前のリハビリテーションに関しては,愛護的な関節可動域練習・筋力増強練習としか明記されていない.今回,大腿骨骨幹部骨折の骨接合術後に,外側広筋に異所性骨化を認めた症例を経験した.術前の目標設定・および介入に関して,文献的考察を加え報告する. 【症例紹介】症例は20代男性,交通外傷に伴い右大腿骨骨幹部骨折,左Monteggia骨折,腸管損傷を受傷した.骨折に対して骨接合術を施行し,術後右大腿骨骨幹部の骨折部周囲,特に外側広筋に巨大な異所性骨化を認めた.また、腸管損傷から術後感染,およびイレウスを発症,急性胆管炎も併発し,ICU・HCUの入室期間は約2ヶ月にわたった.よって,当院転院時,膝関節屈曲可動域70°と制限をきたし,また大腿四頭筋の筋出力低下から膝関節ロッキングでしか歩行できない状態であった.Needとして,立位作業を行う工場への職場復帰,および通勤手段の自動車運転が挙げられた.また,Demandとしては,学生時代より続けてきたサッカーへの復帰や,医療職への転職も希望されていた. 【経過】必要となる身体機能と現状の機能に大きな乖離を認め,さらに外科的処置が可能となるまでの期間が長く,本人の社会復帰における問題点となっていた.また,ロッキングの継続に伴う二次的影響も懸念された.主治医と共同し,術前の目標をロッキングの改善による歩行速度の改善と関節周辺組織の保護,術後の目標を可動域制限の改善に設定した.パテラセッティングを中心とした等尺性収縮のみ許可を得て,膝関節筋力の維持と歩容改善に対して介入を行った.関節可動域に関しては,伸張刺激を与えない範囲にて介入を実施した.入院後3週間で自宅退院となり,外来リハビリテーションへ移行した.2ヶ月後,骨化は進行したが,転院時と比較しさらなる巨大化・および他部位での発生は認めなかった.歩容に関しては,ロッキングは消失し,10m 歩行速度の改善,片脚立位時間が延長した.膝関節屈曲可動域は90°まで改善を認めた.また,自動車運転の再開も可能となった. 【考察】先行研究では,異所性骨化は重症障害度スコアおよびICU在室日数と正の相関を認めたと報告している.本症例は,多発外傷に加え,腸管損傷から感染症・イレウス等により約2ヶ月間の集中管理が必要であったことから,異所性骨化に至ったものと推測される.大腿骨骨幹部骨折術後に異所性骨化を報告した例はあるが,ステム刺入部に多く見られ外側広筋への発生は稀であった.愛護的な介入の定義に悩みつつも,社会復帰と外科的処置までの術前の機能維持を目的に,術前・術後の目標を設定し介入を実施した.その結果,歩容および歩行速度の改善が見られ,術前の機能維持も図ることができた.年齢に考慮すべき点はあるが,等尺性収縮では更なる骨化の進行には至らず,動作時の筋出力を高める可能性が示唆された.一方で,関節可動域に対しては,部分的な改善に留まることとなった. 【倫理的配慮】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,患者への十分な説明を行い,同意を得た.また,個人情報が特定されないよう配慮を行った.

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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