九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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外転筋の抵抗負荷量の調節
X線像の経時的変化
*永井 良治上田 信弘坂井 亮一堤 より子井上 明生
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p. 14

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抄録

【目的】
 当院では大腿骨骨切り術併用のキアリ骨盤骨切り術変法(以下、キアリ手術)を積極的に施行している。井上らは、大転子の引き降し距離を大(15mm以上)、中(5から14mm)、小(4mm以下)に分けて、術後成績を検討されている。成績良好群(20例中)は大14%、中21%、小64%、また成績不良群(20例中)は大50%、中29%、小21%で大転子の引き降し距離が短いほど、つまり術後外転筋の筋張力低下が良好な関節のリモデリングに影響を及ぼすことがわかる。上記の手術結果より、術後早期からの積極的な外転筋の筋力増強運動は関節症を進展させる加速因子の可能性がある。
 そこで、われわれは、第29回日本股関節学会において外転筋の筋力増強運動方法について力学的観点から考案し報告した。今回は、その筋力増強運動方法の有用性について術後X線像の経時的変化から検討する。
【外転筋の筋力増強運動方法】
 股関節合力の関係より外転筋に対する抵抗負荷量は免荷歩行では禁忌。1/4荷重歩行では背臥位にて下腿下部に約1kgから、1/3荷重歩行では約2kgからとする。1/2荷重歩行では側臥位で一側下肢重量から、2/3荷重歩行では約2kgから、T-cane、全荷重歩行では約5kgからとし、それを客観的指標とし外転筋の筋力増強運動を施行している。
【対象】
 2002年より進行期・末期関節症に対して外反骨切り術併用のキアリ手術を施行した症例で、調査可能であった女性20例20関節。平均年齢48.9歳を対象とした。
【方法】
 外転筋の筋力増強運動の有用性を検討するために、術後1/4または1/3荷重歩行開始時から全荷重歩行開始時までのX線像の経時的変化を評価した。分析は、(1)術後7日目の両股関節正面X線像と比較し荷重開始と背臥位で外転筋運動開始後に、関節裂隙がさらに開大した症例を改善例、関節裂隙のさらなる開大を認めない症例を維持例、骨頭圧壊した症例を悪化例とした。また(2)術後1/2荷重歩行開始時で側臥位にて5秒間以上外転保持可能な到達率。(3)全荷重歩行開始時で外転筋がMMT4以上の到達率についても検討した。
【結果】
 (1)経時的変化は改善20%、維持65%、悪化15%であった。関節裂隙開大は術後12週から22週で平均17.8±3.8週であった。悪化した3症例はすべて円形骨頭萎縮型で1/2荷重歩行開始前であった。(2)5秒間以上外転保持可能な到達率は55%。(3)全荷重歩行開始時で外転筋がMMT4以上の到達率は65%であった。
【考察】
(悪化例に対する対策) 悪化した3症例は(1)1/4から1/3荷重移行期が1例、1/3から1/2荷重移行期が2例であった。(2)関節状態はすべて円形骨頭萎縮型で骨頭側に骨嚢包を認めた。(3)年齢は平均年齢より高く50歳以上であった。骨頭圧壊の先行研究において敷田は、大腿骨頭の圧縮変形の静力学的試験で径10mmの圧縮試験棒を用いて新鮮大腿骨頭を圧縮すると、70kg前後の圧縮力で破壊したと報告している。考案した外転筋の筋力増強運動の股関節合力値に換算すると、側臥位にて外転運動開始前後に相当する。今後は上記の特徴を持つ症例に対して、特に1/2荷重歩行開始時期までは、より慎重に筋力増強運動をしなければならない。
(筋力増強運動に対する考え方) 先行研究において、臼蓋関節軟骨と人工骨頭との間に10箇所の部位における局所的な最大負荷圧測定している。その結果、術直後の股関節の外転筋、伸展筋の等尺性収縮は完全免荷、部分荷重歩行より高い負荷圧となり、杖歩行時で同等な負荷圧を関節に与えると報告されている。本結果においても、術後の側臥位での外転筋の筋力増強運動は、完全免荷から1/3荷重歩行期間より高い負荷圧となり、1/2荷重歩行時で同等な負荷圧となる。股関節合力を考慮すれば、術後の筋力低下に対して単純に筋力強化することは非常に危険である。術後早期からの積極的な外転筋の筋力増強運動は、一方では関節負荷の増大を招き、過剰な関節負荷は避けるべきであると考える.本法は現時点で関節裂隙のさらなる開大は平均17.8週、改善・維持例85.0%でその有用性が確認され、より安全に行うことができると考える。キアリ手術後に限らず、各種骨切り術、また人工関節手術や再置換術で広範囲に骨移植された症例にも応用してもらいたい。
【まとめ】
1:外転筋の筋力増強運動方法を考案した。
2:キアリ手術後のX線像の経時的変化からその有用性を検討した。
3:関節裂隙の開大は平均17.8±3.8週.改善・維持例は85%でその有用性が確認された。

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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