九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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人工膝関節全置換術後における理学療法についての一考察
*羽田 清貴木藤 伸宏島澤 真一奥村 晃司
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キーワード: TKA, 力学的ストレス, 歩容
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p. 18

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抄録

【はじめに】
 一般的に人工膝関節全置換術(以下、TKA)後の理学療法として、筋機能改善、関節可動域(以下、ROM)改善が主目的となり、術前の姿勢及び歩容の異常が術後でもみられる症例を多く経験する。それらの異常は、人工関節に偏った力学的ストレスを生じさせ、インプラントの磨耗や破損を早期にきたしてしまうことが考えられる。従って、術後の理学療法として、膝関節への力学的ストレスを軽減できるような姿勢及び歩行の獲得を目的とし、下部体幹の安定化により骨盤の可動性を向上させる理学療法を組み入れる必要がある。今回、両側の関節リウマチ(以下、RA)による膝関節炎を呈し、右TKAを施行した症例を経験し、姿勢、歩容の改善に焦点を当てた理学療法を行った。理学療法の内容と経過について、考察を加え報告する。
【症例紹介】
 67歳、男性。診断名:RA、RAによる両膝関節破壊。
現病歴:平成7年頃より両膝に疼痛出現し、近医に通院するも疼痛軽減せず、TKA勧められるが拒否。同年、他院にてRAと診断される。平成15年11月上旬頃より再び右膝の疼痛増強し、歩行困難となる。同年11月14日に当クリニック受診し、理学療法開始。平成16年2月24日、当院にて右膝関節TKA施行。同年3月19日、当クリニックにて理学療法再開。
【理学療法評価:術後4週】
 ROM:膝関節屈曲左右120°、伸展右-15°、左-20°。筋機能評価:右膝関節屈曲時、大腿二頭筋が優位に収縮し脛骨が外旋し、膝関節が内側に変位。立位姿勢:前額面にて、大腿内転・内旋位、下腿外旋位を示し、上半身重心は右側変位。左腰背筋群、大腿直筋、ハムストリングスは過緊張、大殿筋、腹筋群の筋緊張は低い。矢状面にて骨盤後傾位。上半身重心は前方変位。歩行:右立脚初期から中期に、大腿が内転・内旋、下腿が外旋し、膝関節外反を呈し、体幹は右側へ傾斜。骨盤移動は少なく、体幹の回旋は生じない。
【本症例の理学療法の考え方】
 本症例の術前の理学療法は、関節保護を目的とし、術後に予測される筋機能の変化に対して、徒手的及び膝関節外へのアプローチを行った結果、T字杖歩行が可能となった。しかし、歩容は右立脚初期から中期に、大腿内転・内旋、膝関節が内側へと変位し、膝外反を呈した。また、骨盤移動は少なく、体幹の回旋は生じなかった。TKAにより構築学的適合性の改善とともに、疼痛軽減及び膝関節ROMの改善が図られたが、術後の歩行は術前と同様な歩容を呈していた。右立脚初期に大腿内転・内旋する原因として、大殿筋の筋機能不全により大腿外旋位で固定できないことが考えられる。また、股関節のROM制限がないにもかかわらず、骨盤移動が少ない原因として、下部体幹の安定性低下及び骨盤-下肢の運動連鎖不全により、骨盤による重心移動が困難であると考えられる。この為、本症例の身体重心移動は、足関節・股関節方略を十分に使うことができず、膝関節にて身体重心移動をせざるをえない状態であると推測した。すなわち、大殿筋の筋機能不全に対し、代償的にハムストリングスが過剰収縮し、股関節と膝関節を分離して制御することができないと考えられる。このことは、立位姿勢でハムストリングスの筋緊張が高く、大殿筋、腹筋群の筋緊張が低いことからも推測される。また、体幹の回旋が生じず、水平面における骨盤の動きの制限は、膝関節に異常な回旋ストレスが生じると考えられる。これらの姿勢や歩容の異常により、脛骨外側関節面への力学的ストレスが増大し、インプラントの磨耗や破損の一要因にもなると考えられる。この為、術後の理学療法として、膝関節運動機能の再構築だけではなく、身体重心の変化による関節面への偏った力学的ストレスを軽減させるような立位姿勢及び歩行の獲得を目的とした。理学療法として、下部体幹の安定性向上による骨盤後傾及び上半身重心の改善を図った。また、歩行時の骨盤による重心移動を誘導するために、重心移動を意識させた体幹の回旋運動を行った。
【最終評価:理学療法開始4週後(術後8週)】
 立位姿勢:上半身重心の右側及び前方変位の改善。大腿内転・内旋位の改善。大殿筋及び腹部の筋緊張向上。歩行:右立脚初期から中期の、大腿内転・内旋、下腿外旋、膝関節外反の改善。骨盤による身体重心移動が可能。上肢の振りが出現し、体幹の回旋が生じるようになった。また、左膝痛が軽減した、歩きやすくなったなどと、主観的な改善もみられた。
【結論】
 膝関節への力学的ストレスを軽減できるような姿勢及び歩行の獲得を目的とし、下部体幹の安定化により骨盤の可動性を向上させる理学療法を展開した。理学療法により、姿勢、歩容が改善した。TKA後の理学療法として、姿勢や歩容の異常を把握し、膝関節への力学的ストレスを軽減できるような姿勢・動作制御能力の獲得が重要であると考える。

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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