九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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大腿骨頚部骨折術後の歩行機能予測
受傷前杖歩行自立群での比較
*押川 達郎河野 洋介山下 絵美飛永 浩一朗井手 睦
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p. 21

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抄録

【目的】
 大腿骨頚部骨折は転倒による受傷が最も多く、高齢化社会であるわが国では、対象患者の平均年齢もそれに伴い上昇し、受傷前移動能力が低下している症例を受け持つ機会は多い。急性期病院では在院日数の短縮化に伴い術後の限られた期間で各症例に応じて適切な治療計画を立てる必要があり、リハビリでの機能的予後に関する取り組みが重要である。
 受傷前杖歩行が自立であった患者を対象に患肢への荷重率、立位・歩行訓練レベルを経時的に評価し機能予後予測の検討を行ったので報告する。
【対象】
 14年12月から16年1月までの期間に当リハセンターに紹介があった大腿骨頚部・頚部基部・転子部骨折患者364名のうち、受傷前歩行能力が杖歩行自立レベルであった患者26名(平均年齢82.9±8.2歳、男性3名、女性23名。主な合併症脳血管疾患5名、骨折の既往7名,心疾患3名)を対象とした。独歩自立であった者は除外した。対象者は骨接合術(CHS+CCS11名、γ-nail11名、DHS+TSP5名、pinning1名)を施行され、全員術後翌日から全荷重が許可された。
【方法】
 診療録と実施記録から年齢、性別、術後理学療法実施期間、受傷前歩行能力、合併症、痴呆の有無(改訂長谷川式簡易知能評価スケールを用い20点以下を痴呆と判断)を調査した。理学療法実施毎に立位時の患肢への荷重率%(全体重のうち患肢で体重を支持できる割合)、歩行訓練レベルを1、平行棒内立位2、平行棒内歩行3、歩行器歩行4、杖歩行の4段階で評価し、経時的変化を検討した。最終的な歩行能力は当院退院時で判断した。統計学的処理にはt検定と単回帰分析を用いた。
【結果】
 対象患者のうち杖歩行まで歩行訓練が到達した者(到達群)は11名(非痴呆5名、痴呆6名)到達しなかった者(未到達群)は15名(非痴呆5名、痴呆10名)であった。術後理学療法期間は到達群18.5±5.4日、未到達群16±6.4日であり両群間に有意差は認められなかった。年齢は到達群79.1±6.6歳、未到達群85.6±8.4歳と未到達群で有意に高かった(p<0.05)。HDS-Rの点数は、到達群で19.4±6.5点、未到達群で17.2±6.3点と到達群に高い傾向はみられたが有意差は認めなかった。両群間に有意な差は認められなかった。各歩行訓練レベルの開始日を到達群・未到達群で比較すると、1、平行棒内立位開始までは、到達群3.0±1.8日、未到達群2.9±1.3日、2、平行棒内歩行までは到達群4.3±1.5日、未到達群5.9±3.7日と有意な差は認めなかったが、3、歩行器歩行までは到達群6.2±2.7日、未到達群10.6±6.4日と未到達群で有意に長かった(p<0.05)。各歩行訓練レベルでの平均荷重率は1、平行棒内立位では到達群21.4±9.8%、未到達群32.0±16.4%2、平行棒内歩行では到達群36.0±16.4%、未到達群37.0±14.5%3、歩行器歩行では到達群46.9±15.7%、未到達群39.7±15.4%と各レベルで有意な差が認められなかった。
 また、回帰分析の結果、到達群での歩行レベルと期間、歩行レベルと荷重率、未到達群での歩行レベルと期間の間に相関が認められた(p<0.01)が、未到達群での歩行レベルと荷重率の間には相関が認められなかった。
【考察】
 大腿骨頚部骨折患者は、心疾患や痴呆などの合併症を有し、受傷前から歩行能力が低下している症例が多い。軽部は、高齢大腿骨頚部骨折患者の歩行能は受傷前より1段階低い機能レベルになりやすいと報告しているが、本研究においては受傷前杖歩行であった26名のうち11名が当院入院中に杖歩行訓練まで実施できた。本研究からは受傷前が杖歩行であっても、1,85歳以上の超高齢者でなく、2,術後7日前後に歩行器での歩行訓練が開始できた症例では、術後13日前後で杖歩行訓練まで理学療法を進められることが推察された。また、未到達群では患肢への荷重率と各訓練レベルの間に相関がみられず荷重率が術後期間に伴って増加しない症例は歩行能力が向上しにくい傾向を示し、患肢荷重率の増加も歩行能の一つの因子であることが推察された。以上の結果より年齢、術後約1週間の歩行能、患肢荷重率の増加である程度の移動能力の予後予測ができ、急性期で各症例に応じた適切な治療計画への情報提供ができるのではないかと考えた。

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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