九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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セミナ-II:障害者の運動学習
*冨田 昌夫
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p. 4

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抄録

【はじめに】 障害はきれいさっぱり治せるものではなく、何らかの形で残るものである。患者は以前の身体とは違う、障害を残した現実の身体で環境に適応し、行為を学習する必要がある。私たちの今後の治療が向かう方向は治すことではなく、運動学習を促すことであると位置づけて、その戦術に関して述べさせて頂く。
【従来からの治療法の検討】 最も一般的に行われている治療法は人の動きをリンクモデルで分析し、できない動作があればその原因を筋力やROMなどモデルの構成要素で健常者と比較検討し、低下していればそれらを強化、改善して健常に近づけることで動作をできるようにすることである。治療して治し正常化することが目的になる。動作分析を治療に用いることも多いが健常者が特定の条件で、特定の環境の元で行い、これを正常動作のモデルとして分析する。治療は患者の異常動作パターンを健常者の正常動作パターンに近づける、つまり患者の動作を正常化し、治すことが目的となる。いずれも、セラピストが一方的に決めた正常という枠の中で患者の身体の機械的な形の変化を求めて正常化するようにアプローチするものである。結果的に患者が何を感じ、どのように動きたいのか反映できる余地はきわめて少なく、障害の重い患者では効果が得にくかったと考えている。
【障害とは】 ナイサーはある文脈のもとに構えた姿勢を図式と呼び、行為はこの図式をもって“対象に働きかけることと変化を知覚することの循環”であるとしている。私たちは目的を意識するがどのようにやるか手続き的なことは無自覚に行っている。つまり知覚循環は無自覚に行われている。行為の障害とはこの知覚循環がうまくいかなくなること、つまり知覚循環の不全であると私は考えている。知覚循環の不全は知覚システム問の協調の崩れが原因になっている。各システムの零点や感度が狂ってしまい、現実に感じていることの内容に少しずっずれが生じている場合と、触覚のように運動感覚と直接結びついた知覚システムと違って、視覚を代表とする遠感覚受容器のように実際に情報をえるための身体の動きと情報に反応する身体の動きが全く違う知覚システムでは過去の経験を通して既にできている身体のイメージでできることと現在の身体機能で実際にできることがうまく更新されずに、率離している場合があると考えられる。
【治療】 現在の身体機能で知覚システムの零点や感度を再調整(キャリプレーション)したうえで実際に環境に働きかけ、行為を通して率離をうめていく作業が必要になる。今までも私たちはADL訓練として繰り返 し練習してきた。しかしキャリプレーションに関しては全くといって良いはど無関心だった。障害を残した身体で運動学習するうえで重要なことは筋の緊張を整えて支持面にしっかりと定位できること、知覚システム問にずれがなく自己を定位できること、つまり知覚システム問の協調ができる状態で、様々な探索に基づいた知覚循環を繰り返し練習することが重要である。日常的には床上動作の見直し、遠心性の筋収縮による筋を緩めながら使う練習、ダイナミックタッチによる身体の揺すりなどを習慣的に行えるようにしたいと考えている。
【おわりに】行為ができなくなるのは筋力やROMのような機械的な問題のためだけでなく、重症な患者では感覚調整の問題がより大きいと考え、治療法を運動学習として検討したい。治療効果としてはまだ手探りの状態ではある。どうぞ皆様のご意見を伺わせて頂きたい。

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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