主催: 社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会, 社団法人 日本作業療法士協会 九州各県士会, 主管 社団法人 長崎県理学療法士会, 主管 長崎県作業療法士会
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【はじめに】
Constraint-induced movement therapy(以下;CIMT)は、脳血管障害(以下;CVA)による片麻痺患者に対して、非麻痺側上肢をスリングやミットで抑制し、麻痺側上肢を集中的かつ積極的に使用させることにより、麻痺側上肢の機能回復を図る手法の1つである。CIMTの手法は、CVAや大腿骨頸部骨折、脊髄損傷(不全麻痺)患者の下肢運動障害にも応用されており、その効果性もあきらかにされつつある。しかし、いまだ機序解明に関しては不明な点が多く、運動の学習や運動の制御,運動出力の持続に重要であるとされている固有感覚に対する報告も少ない。
そこで、本研究はCIMTによる膝関節固有感覚の変化を関節可動域の観点から検討したので報告する。
【対象】
CVA(13例)または膝関節疾患(17例)の既往を有し、検査側下肢の粗大筋力が3以上の30例(平均年齢:77.5±10.7歳 男性:7例 女性:23例)とした。また、一側下肢を抑制した状態で介助歩行不能な者とコミュニケーション困難な者は除外した。
【方法】 麻痺側か膝関節疾患を有する膝を検査側下肢とした。検査肢位は股・膝関節90°屈曲位の坐位とし両上肢は大腿上に位置、両足底は床面より離床させた。その状態より膝関節を他動的に30°伸展させて位置覚を記憶させた。その後、閉眼にて自動的に膝関節30°伸展位をとらせて前後の測定誤差を検出した。検査測定の前に検者がデモンストレーションを実施した。角度測定には、電子式関節角度計DIANGLE-T(光ベルコム)を用いた。また、検査測定後の視覚や言葉によるフィードバックはないものとした。
検査測定後に短下肢装具と膝伸展保持装具を非検査側に装着し、連続30mの歩行を実施した。その際、転倒の危険性がある者に対してのみ転倒防止のための介助を実施した。
統計解析には、1標本t検定を用い有意水準を5%未満とした。
【結果】
CIMT前後の膝伸展角度は前;37.1±9.9°後;34.1±6.6°であり、位置覚の誤差は前;9.6±7.5°後;5.7±5.3°とCIMT介入後の膝関節位置覚は有意に改善を認めた(p<0.01)。
【考察】
LevyやSchaechterによればCIMT後の機能回復は、脳の可塑性や再構築が生じた結果であると述べている。また、点字読者では読時をする指を支配する運動皮質の体部位再現領域が拡大するという脳の可塑性が示唆されている。しかし、脳の可塑性や再構築に至るまでには、感覚(広義)からの情報入力が必要であると考えている。
一側下肢の疾病があれば日常生活での使用頻度は減少し筋収縮や関節運動による筋紡錘や腱紡錘、関節受容器からの感覚情報が減少すると考えた。この事は,廃用性萎縮を来たしている筋の筋紡錘や腱紡錘の活動量が減少するという報告や健常膝に対しOA膝では位置覚が低下することに裏づけられている。
CIMTでは、検査側を強制的に使用させることにより、検査側の膝関節に圧迫をかけることと、筋負荷が大きくなり関節の位置変化に重要とされる筋紡錘や腱紡錘からの神経への求心性の信号が増加した結果位置覚が有意に改善したと考えた。
脳の可塑性や再構築に至るまでには、感覚からの情報入力を必要としていることから、筋紡錘や腱紡錘、関節受容器の活動量の増加による感覚刺激がシナプス、ニューロンを介して脳の可塑性、再構築を図ったと考えた。