主催: 社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会, 社団法人 日本作業療法士協会 九州各県士会, 主管 社団法人 長崎県理学療法士会, 主管 長崎県作業療法士会
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【はじめに】
伸筋腱のハンドセラピープログラムは、損傷部位によって決まるが、伸筋腱が屈筋腱に比べ脆弱なため、一般的には、腱縫合後3から4週間固定される。近年、手指伸筋腱断裂後の早期運動療法の成績が報告されており、これらの方法は、腱の再断裂の危険性があるものの癒着を最小限にし、早期に比較的良好な関節可動域の改善が期待できる。今回、手関節部での伸筋腱断裂に対して、早期自動屈曲・自動伸展法を行ったので、この症例につき報告する。
【方法】
今回使用した早期自動屈曲・自動伸展法を紹介する。
手順は、
1.手関節を0°に保持(他動的に保持してあげる)して、その状態で、伸展位を保持(active hold)させる。(5秒間)
2.手関節を背屈させ、その状態で、自動屈曲(active flexion)(グーをさせる)を促す。
3.1から2を2,3回おこなう。
4.最後に、手関節を中間位にて、自動伸展(active extension)を行い終了
以上の内容を1日午前、午後の2回おこなう。
運動時以外は、シーネで固定しておく。
【症例】
60歳の男性、右利き
診断名は、右橈側手根伸筋腱および右第2,3,4伸筋腱断裂であった。
<現病歴>
2003年(平成15年)7月6日、作業中誤って鎌で右手背部を受傷。近医受診し腱断裂がみられたため、当院整形外科を紹介受診。初診時の状態は、手関節の背屈弱く、2から4指 伸展不可(MPJ)であった。上記の病名と診断し、7月9日(受傷より4日後)に伸筋腱縫合術を施行し、7月11日、理学療法が処方された。
<手術所見>
術中の所見では、短橈側手根伸筋(ECRB)、総指伸筋(EDC)2,3、固有示指伸筋(EIP)は完全断裂、総指伸筋(EDC)4は不全断裂の状態で、断端は、伸筋支帯内に残存していた。これを遠位側に引き出し、ECRB、EDC2,3は、4-0ナイロン津下Loop針3本による6-strand suture+6-0ナイロン糸によるcircumferemtial suture連続縫合、EIPは同様に4-strand suture+連続縫合にて、腱縫合術を行った。
<術後の後療法経過>
7月11日、早期運動療法開始
7月23日、退院、以後、外来通院にて行う。
退院時所見(術後2週)
伸展は、MP関節伸展、2指から4指の順に、-40°、-30°、-15° PIP関節、DIP関節は、0°であった。
%TAM法で、2指から順に50.0% 、55.4% 、54.2%で、指伸筋腱機能評価でFairであった。
8月7日、シーネ除去し、自動運動開始。
8月29日、術後7週
伸展は、MP関節伸展、2指から順に-30°、-8°、20°
PIP関節、DIP関節は、0°であった。
手関節、指屈曲にて、掌屈5°、背屈60°、指伸展位にて、掌屈30°、背屈50°であった。
%TAM法で、2指から順に73.1% 、80.8% 、90.0%で、指伸筋腱機能評価でFair、Good、Excellentであった。
【考察】
外傷後の伸筋腱断裂後の後療法に関しては、実験的研究や、多数の臨床報告から手関節背屈位(30°前後)に保持すれば自動屈曲を行っても縫合部に緊張がかからず、早期に dynamic splintによる早期運動療法が提唱されている。Kleinert法に代表される屈筋腱の早期運動療法では、他動屈曲により、屈筋腱が多少近位へ押し戻される可能性があるが、伸筋腱では、dynamic splintによる他動伸展だけでは、縫合部の近位への移動は少ないと思われる。そのため、縫合部の癒着を防ぐためには、自動屈曲による縫合部の遠位方向への移動と指伸展位でのモstop and holdモ程度の自動伸展運動が近位方向への移動に必要不可欠と考える。
本症例では、手指MP関節の伸展不全がみられている。この理由としては、複数腱の損傷であったこと、腱縫合部が伸筋支帯にかかっており、同部位での癒着、縫合不全などが考えられる。またそのほかに、早期に自動屈曲がしっかりと出来ず、縫合部の移動が不十分で、癒着を形成してしまったことも理由と思われる。