主催: 社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会, 社団法人 日本作業療法士協会 九州各県士会, 主管 社団法人 熊本県理学療法士協会, 主管 社団法人 熊本県作業療法士会
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【背景と目的】
起き上がりは、基本動作の基礎的な構成要素の一つであり、それが可能か否かによって、その人のADL能力に及ぼす影響は大きい。起き上がり動作を評価する場合、「自立、一部介助、全介助」あるいは「可能、不可能」などといった質的な評価や、起き上がりのタイプ別による検討などが行われているが、定量的な指標を用いての検討は少ない。
そこで本研究では、脳卒中片麻痺患者を対象に起き上がりに要する時間を定量的に評価し、上下肢ならびに体幹機能との関係について検討した。
【対象と方法】
当院で入院治療中の脳卒中片麻痺患者49名(右片麻痺23名,左片麻痺26名、男性25名,女性24名)年齢68.0±9.6歳、発症から87.7±55.6日経過した患者を対象とした。調査対象者には、研究の主旨と内容について十分に説明し調査を開始した。
方法は、背臥位から端坐位までの移行時間を2回測定し、最短値を起き上がり所要時間とした。身体機能の評価は、非麻痺側の握力、麻痺側上・下肢のBrunnstrom Stage、および体幹機能はTrunk Control Testで評価した。
【結果】
単相関分析の結果、起き上がり所要時間と有意な相関を示したのは、相関が高い順に体幹機能(r= -0.47)、非麻痺側握力(r= -0.34)、麻痺側下肢機能(r= -0.33)であった。麻痺側上肢機能とは有意な相関は認められなかった。さらに、交絡因子を調整した重回帰分析では、起き上がり所要時間に影響を及ぼす因子として有意であった項目は体幹機能のみであった(β= -0.424,p<0.05)。非麻痺側の握力には有意傾向が認められた(β= -0.245,p<0.1)。
【考察】
今回、起き上がりに影響を及ぼすことが考えられる因子と起き上がり所要時間との関連性を検討した。
単相関分析の結果より、起き上がり所要時間と関係が認められたのは、体幹機能、非麻痺側握力、麻痺側下肢機能であった。すなわち、体幹機能が良好なほど、非麻痺側握力が強いほど、また麻痺側下肢機能が良好なほどに起き上がるのが速いことになる。
さらに、重回帰分析によって、独立して起き上がり所要時間に影響を及ぼす因子として抽出されたのは、体幹機能のみであった。すなわち、今回比較した測定項目の中では、上下肢の機能より体幹の機能のほうが起き上がり動作に及ぼす影響力が大きいことが示唆された。
これらの知見より、片麻痺患者の起き上がり動作をスムーズにするためには、上下肢機能へのアプローチばかりではなく、体幹機能の向上を目的とした理学療法アプローチの重要性が示唆された。
今後は、起き上がり不能群との比較検討や起き上がりタイプ別での検討が必要であり、体幹機能の向上プログラムによる介入研究などの縦断的研究が必要となる。