九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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麻痺側上肢の更衣動作の補助手使用獲得に向けて
*清水 志帆子林 克樹
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p. 28

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抄録

【はじめに】本症例は5ヶ月間リハビリテーション実施にて廃用手が補助手機能を獲得した。しかしADL場面で使用頻度は少なかった。脳損傷部位を考慮し2日間集中的な訓練を実施した結果、更衣動作で使用頻度が増加した。その際の治療方法について考察を加え報告する。
【症例紹介】71歳、男性、クモ膜下出血、脳梗塞による右片麻痺。発症日H16.8.11、翌日、瘤内塞栓術施行。CT所見で運動前野、被殻外側に損傷を認めた。H16.9.27.から当院で訓練開始。感覚は表在、深部軽度鈍麻、高次脳機能は運動性失語で一部表出の難しさがある他はADL場面で特に問題は認めなかった。歩行監視、SIAS48点、上肢機能Br.Stage上肢3、手指2でわずかな屈曲が可能だった。肩関節は亜脱臼を認めた。ADLはBarthel Index(以下B.I)80/100点で更衣動作は監視を要し右上肢の参加は認めなかった。今回の訓練開始時(H17.3.3.)は独歩可能、SIAS57点、右上肢はBr.Stage上肢4、手指4で上肢は空間保持能力に乏しく、手指の分離運動が不十分だった。運動時痛を肩、肘関節に認めた。ADLはB.I95/100点で更衣動作は自立していた。
【更衣動作の分析】動作分析と動作時間の計測をデジタルビデオカメラを用い行った。上衣着衣58秒。右上肢は常に屈曲位を示し把持参加は無く、終了時衣服の捩れが見られた。脱衣は55秒で、左上肢から抜こうとするが抜けず手順が定まらなかった。右手指は数回衣服を摘みそうになったが実用性に乏しかった。
【治療内容】1:端座位にて左右への重心移動を用い、両上肢の外転反応と肩周囲筋群の支持機能を促通した。2:視覚性対象物品を用いて、右上肢の手の到達、把持動作を繰り返し実施し、その後把持した物品を左上肢に持ち変える協応動作を実施した。3:衣服の着脱を想定し、机上にタオルを置き両手協応にてしわ伸ばし動作を左右交互に実施した。4:衣服着脱動作を実施した。手順をパターン化し、右上肢より触運動感覚をゆっくり入れ動作を繰り返し行った。これら4項目を行う際、セラピストは徒手的介入により筋緊張の調整を適時行い、より良い姿勢運動パターンを促通した。
【結果】SIAS59点、右上肢の空間操作と手指の分離運動が向上した。上衣着衣65秒で、2回各7秒持続した右上肢の裾の把持が見られた。終了時の衣服のよれは減少した。脱衣は23秒で、体幹、頭頸部、左上肢、右上肢の順序で行った。右上肢で左袖口の持続的な把持が7秒可能だった。
【考察】更衣は視覚と体性感覚が切り替わりながら一連の動作手順によって行われる。今回、徒手的に修正を加えながら視覚性対象物への到達運動と、触運動覚を使用した上肢操作、これらを踏まえ順序だてた日常に関連した動作訓練を行ったことで、更衣動作での右上肢使用、両手協応動作の増加が図れたと考える。

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© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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