九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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多面的阻害要因に着目した日常生活活動評価表の作成
職種間・施設間の主観的対象者評価の伝達
*与那嶺 司マイク リナルディ溝田 康司
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キーワード: ADL, 多面的評価, 阻害要因
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p. 15

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抄録

【はじめに】
我々セラピストは臨床場面で患者のゴール設定に際して身体的機能のみで判断を下す事はなく、対象者の精神・心理・社会的背景も鑑みて総合的な判断の下にゴールを設定しているはずである。日常生活活動(以下ADLと略記)という評価概念は、理学療法やリハビリテーション医学の枠を超えて広く医療福祉領域に定着しているが、ADLを評価する上で多面的要因を反映できるような評価様式は見当たらない。Dyrenら(1989)はADLの評価に身体的(Physical)精神的(Mental)情動的(Emotional)社会的(Social)要因を加えることを提案している。ここでいう身体的要因は痛みや運動麻痺などを指し、社会的要因は物的人的環境要因を指す。精神的要因は知的側面で失語や半側空間無視なども含め、情動的要因は意欲や不安、抑うつなどの心理的側面と解釈される。今回Dyrenらの評価様式に基づいて多面的日常生活活動評価表を試作したので報告する。
【評価表の構成】
作製した評価表の中では、道具的ADLは、屋外(就職・通院・買物・公共交通)と、屋内(調理・洗濯・掃除・服薬・意思疎通・金銭管理)、基本的ADLはセルフケア(摂食・入浴・更衣・整容・トイレ)、基本動作(屋外移動・階段・屋内移動・床立上り・椅子立上り・起上り)となっている。これらの項目を自立度をInd.=自立、Dep.=依存、△=介助自立とし、自立度の確認方法をD=直接観察、P=本人、F=家族、N=看護、M=カルテからの情報と記入する。ADL阻害要因の重要度は記録者によって判定され、重大な阻害要因とすれば2点、やや問題なら1点・問題なし0点・判定不要/の4つに分け要因重要度を判定していく。改善の予測を矢印で表す。
【症例適応】
34歳男性右片麻痺患者:退院後外来通院中の患者で、ほとんどの項目は自立しているが、復職は果たしていない。阻害要因は漠然とした不安を訴えていたため情動的側面を2、身体・精神・社会的要因は1点とした。
【考察】
本評価表は元来主観的要素の強いADL評価を、逆に評価者の視点を明瞭にし、曖昧であったADL確認方法などを記載する事で、伝達された側に評価者の判断を正確に伝えようとするものである。多面的要因を考慮に入れた評価はSF-36などのQOL評価に見られるが本評価法はあくまでも、評価者の視点の伝達を強調している。さらにSF-36などではメンタルな側面とまとめられている側面を、高次脳機能障害などの精神的側面と、意欲などの情動的側面にあえて分離し、これまで伝えにくかった阻害要因を、セラピストだけでなく地域の保健士などの関連職種に伝えることを意図して作成した。今回は作成者自身の評価であったため、記載上の不明瞭な点を明らかに出来なかった。今後評定者内・評定者間妥当性も検討し、本評価表の可能性と問題点を検討したい。

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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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