九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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TFCC損傷の保存療法における当院の試み
*岡本 龍児井川 有里秀島 聖尚石本 健小松 智平川 信洋光永 康司北川 範仁笠原 貴紀可徳 光博鶴田 敏幸
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p. 2

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抄録

【はじめに】
臨床では,TFCC損傷例に橈側優位で手を使用している症例が多く観察される.TFCC損傷例では尺側の筋群の動的安定化が得られず,橈側優位の手の使用を繰り返すことにより,尺側の不安定性が増し,動作時痛が増すのではないかと推測した.当院では,尺側の筋群の安定化を図ることで,TFCCの安定化を獲得する試みを行っている.このアプローチ方法を紹介し,その治療成績を検討したので報告する.
【対象・方法】
当院にてTFCC損傷と診断され,保存療法が行われている患者23例(男性12例,女性11例)23手を対象とした.経過観察期間は平均2.2ヶ月,年齢は14から69歳で平均31.3歳であった.受傷原因は,急性外傷8名,慢性障害が15名であった.方法は疼痛検査(VAS)・関節可動域検査,握力,DASH-scoreを4週ごとに計測・調査した.
【治療・理学療法】
当院では,TFCC損傷例に対して,まず保存療法を試みる.急性期症例のみ,当初前腕ギプスを約3週間装着,その後,当院常勤の義肢装具士の作成したTFCC用サポーターを装着する.理学療法ではアイシング指導,ADL指導を行った.また関節可動域訓練,手関節尺側の動的安定化要素である尺側手根伸筋・屈筋,方形回内筋の筋力増強を行った.
【結果】
初期評価時の疼痛検査では運動時痛は23例中23例(VAS6.4±2.1点)であったが最終評価時では23例中15例(VAS2.4±2.3点)と減少していた.ROMでは初期評価時,前腕回内・回外,手関節掌屈・背屈・橈屈・尺屈で健側に比べ患側の可動域が減少していたが,最終評価ではそれらの可動域に改善が見られた.また,握力検査では初期評価時の平均は患側21.7±10.0kgであったが,最終評価時では患側27.6±10.7kgであり,患側で5.9kgの改善がみられた.DASH-scoreでは全項目において改善がみられた.
【考察】
結果より,尺側手根伸筋・屈筋,方形回内筋の筋力強化・筋機能向上をすることによって手関節尺側の動作時の安定化が高まり動作時痛が軽減したと考える.また,pinch・grip動作時の尺側指に力を入れて動作を行うことも,これらの動的安定化要素を働かせ,尺側の動的安定化を高めるADL指導であると考える.TFCC保存例の場合,尺側の筋群の機能向上を図ることでTFCCへのストレスが軽減され良好な成績が得られるのではないかと考える.しかし,23例中2例は保存療法で改善がみられず,尺骨のプラスバリアントが著名で最終的に尺骨短縮術を受けた.観血的治療選択例として、尺骨のプラスバリアントが著明なもの,遠位橈尺関節の不安定性が強いものといわれているが,構造的な問題のある症例に対しては尺側の筋機能向上による尺側の安定化獲得には限界があると考えた.

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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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