九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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橈骨遠位端骨折術後に対する作業療法の一検討
前腕回外動作時の運動連鎖に着目して
*楠本 美奈杉木 知武阿南 雅也木藤 伸宏川嶌 眞人
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p. 25

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抄録

【はじめに】
橈骨遠位端骨折術後の作業療法としては、可動域改善・握力向上に対し着目されることが多い。手関節は前腕-上腕-肩甲骨-胸郭と連結し、運動連鎖により機能的な影響を受けやすいため、手関節-前腕のアプローチに加え、上肢-上部体幹の運動連鎖を効率よく行う機能獲得が必要と思われる。今回、矢状面の座位姿勢と座位での前腕回外動作を臨床指標とし、術後8週の時点で評価を行い、アプローチをした結果、症状改善が得られた為以下に報告する。
【症例紹介】
年齢:79歳、性別:女性、職業:元調理師 診断名:右橈骨遠位端骨折 現病歴:平成17年11月7日、右脛骨高原骨折にて入院中、服を着替えようと箪笥に手を伸ばした時、バランスを崩して転倒。同年11月8日観血的骨接合術施行。既往歴:左半月板損傷(70歳)
【作業療法評価】
(術後8週)疼痛:Visual Analogue Scale(以下VAS) 安静時(6/10)・夜間時(7/10)・前腕回外運動時(10/10) ROM-t(Rt/Lt):Pain(以下P)前腕回内(70p/80)・回外(40p/80)・手関節掌屈(20p/70)・背屈(15p/70) 座位姿勢:頭部前方変位、胸椎後弯、骨盤後傾位、重心線から上半身重心は後方変位。前腕回外動作:肩甲骨外転位、両上腕骨頭前方変位、上腕外旋位、前腕回内位のため、体幹右側屈・右回旋、頚部左側屈・右回旋の補償動作が認められた。
【作業療法アプローチ】
本症例は加齢に加え、左半月板損傷と日常生活での代償的な作業動作により、下部体幹の安定性が低下し、上半身重心の後方変位が生じたと推察される。今回、右脛骨高原骨折での影響も加わり、このようなアライメントの崩れが上肢-上部体幹の運動連鎖の破綻を引き起こしたと考えられる。手関節-前腕機能改善のみでなく、下部体幹の安定性の向上、上部体幹のアライメントに着目し、上肢-上部体幹の運動連鎖、上半身重心の正中化を目的としアプローチを行った。
【結果】
(術後12週)前腕回外運動時(VAS2/10) ROM-t(Rt/Lt):前腕回内(70/80)・回外(70/80)・手関節掌屈(60/70)・背屈(60/70) 座位姿勢: 頭部前方変位の減少、胸椎後弯減少、骨盤中間位保持可能、上半身重心正中化。前腕回外動作:胸郭可動性改善により、肩甲骨外転位、両上腕骨頭前方変位、上腕外旋位、前腕回内位改善。このことから、前腕回外動作制限改善し、体幹右側屈・右回旋、頚部左側屈・右回旋の補償動作の改善が認められた。
【まとめ】
今回、橈骨遠位端骨折の症例に対し、手関節-前腕のアプローチに加えアライメントに着目し、体幹機能改善を試み、上肢-上部体幹の運動連鎖を考慮した。作業療法として、関節可動域改善・筋力強化のみにアプローチするのではなく、日常生活での姿勢・動作を考慮し、運動連鎖にも注目する必要がある。

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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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