主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士会九州各県士会
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【はじめに】
脳卒中後遺症による麻痺上肢手の喪失感により全身運動が大きく妨げられているクライエントに対し介入する機会を得た。介入当初は弛緩し、麻痺上肢手は知覚されず、身体正中軸がずれを生じ歩行も困難であった。
今回、個別での徒手的治療介入と実際場面での麻痺上肢手の操作練習を両立し集中的な上肢への介入の結果、上肢手の操作性と全身運動の改善が得られ、麻痺上肢手の役割の再獲得のもと社会参加の支援に寄与できた事例を報告し、機能的作業療法の必要性について検討したい。
【症例紹介】
57歳男性、脳梗塞(左中大脳動脈閉塞)、右片麻痺、失語症、発症1ヵ月後当センター回復期リハビリテーション病棟へ入院。入院時Brs上肢・手指II、下肢IV、表在・固有感覚ともに鈍麻Barthel Index45点、「右手が使えるようになりたい」と強く望まれる。
【治療】
麻痺側腹部の支持性が弛緩により損なわれ麻痺側上肢帯の安定性は得られず、「認知しにくい上肢」を呈していると仮説。体幹と上肢帯が連結できるようアライメントを整え、安定した体幹の運動と手掌から入力される情報が知覚しやすいよう上肢手の筋・皮膚の短縮改善を図る。その上で、物品使用のもと末梢からの知覚運動体験を個別介入の中で徒手的に提供し、身体図式の改善・上肢操作性の向上を求めた。
実生活の中では手指の集団屈曲が可能となった時期より道具を固定する支持的な上肢手の使用から練習するように介入した。
【結果】
1ヵ月半の介入の結果Barthel Index100点となり、動作の質に対しても対象物を介すことにより少し安定性を与えられた上肢が安定している体幹に対して動く能力を獲得したことにより、更衣や洗体における麻痺手の参加による効率的な動作の獲得に結びついた。更に実用的歩行も確立された。
【考察】
「認知しにくい手」に対し、戦略として体幹-上肢のアライメントの改善と手が探索しやすいような形状改善を図り、閉回路による固有感覚情報から得られる知覚運動体験を通し、身体図式の改善を求めた。また、個別介入の時間だけでなく手を日常的に使用するように実際場面に入り、能動的な麻痺手の参加が出来るよう関わった。そのことにより手掌からの感覚情報が蓄えられ、手指の動きに対し、感覚フィードバックが働き相反神経の選択された調整が可能となり手指の巧緻運動を発展させ、ADLでの補助的使用につなぐことができたと考えられる。