九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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歩き始め動作に対する徒手的誘導の一考察
-表面筋電図による解析-
*伊藤 恵大平 高正山野 薫高橋 朋子神崎 裕美夏目 精二
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p. 50

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抄録


【はじめに】
臨床では、定常歩行で安定しているものの歩き始めや終わりにふらつきや転倒に対する不安感を訴える患者をしばしば経験する。このような症例に対し、具体的な運動療法を示した報告は少ない。
歩き始め動作は、重心の移動に先行して遊脚側の股関節外転モーメントが発生するといわれている。そこで、本研究では効果的な治療を提供することを目的に、表面筋電図を用いて、健常成人の歩き始め動作における徒手的誘導練習の前後で股関節外転筋の筋活動について調査を行なったので、報告する。
【対象と方法】
対象は、骨・関節疾患、神経疾患、循環器疾患の既往のない健常女性(年齢;27歳、身長:160cm)とし、対象筋は左右の中殿筋、大腿筋膜張筋の4筋とした。表面筋電図測定装置は、テレマイオ2400(Noraxon社製)を用い、サンプリング周波数は1,500Hzとした。
方法は、左右各側より静止立位から歩き始め動作の1歩を測定した。筋活動の判断基準は3SD(基線の3倍)を用い、遊脚側の股関節外転筋活動の有無を確認した。その後、セラピストは振り出す下肢の股関節周囲を把持し、足圧中心点(center of pressure;COP)の逆応答現象を考慮した徒手的誘導練習(練習)を5回行なった。測定は練習前に3回、練習後に7回行なった。
【結果】
対象者は、歩き始め前の静止立位で常に右側荷重(右約57%、左約43%:体重計を用い左右の重量比を測定した)であったため、静止立位でも右側の中殿筋および大腿筋膜張筋の活動が出現していた。そのため、基線が高く、筋活動の変化時期が不明であったことから、右側の歩き始めデータはサンプルから除外した。また、左側の歩き始めデータでも筋活動の変化時期が不明であったものもサンプルから除外した。
左側の歩き始めデータのうち、練習前では3回中0回(除外0)、練習後では7回中5回(除外1)の割合で中殿筋・大腿筋膜張筋の活動が認められ、活動時期は同時期であった。
【考察】
今回の対象は、健常成人であったが、練習前では左側股関節外転筋活動が認められなかった。その理由として、歩き始め動作前の静止立位が右側優位であるため、左側の歩き始めではCOPの逆応答現象が出現せず、左側股関節外転筋を活動させる必要がないと考えられた。
一方、練習後の筋活動は、練習により重心線が正中化され、荷重優位差が少なくなったため、COPの逆応答現象が出現し、股関節外転筋活動が出現したと考えられる。
今回は健常成人に対しての実験であったが、COPの逆応答現象には重心線の正中化が必要であると考えられた。また、重心線を正中化するということは、運動療法として応用できるのではないかと考えられた。
今後は、健常成人での基礎データの蓄積と患者での運動療法効果を検討していきたい。

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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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