九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 043
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ALS患者に作業遂行歴面接(OPHI-II)を実施して
*平山 直子稲富 宏之大久保 篤史松尾 理恵上野 尚子前川 順子加藤 雅一西村 洋子山崎 雅枝芦塚 紘一数 陽子熊崎 利英古川 園子
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抄録

【はじめに】
 今回、OTRは人工呼吸器装着目的で入院し、意志伝達装置の導入時期にある筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS)のA氏を担当した。OTRは、発声不能となり思いを能動的に語ることが少ないA氏が、現在・今後の生活についてどのように考えているのかがわからなかった。作業遂行歴面接(以下,OPHI-II)は半構成的面接の一技法で、対象者の生活史をまとめ客観視させるのに役立つとされている。今回この面接法を用いることで、A氏の思いを理解でき、作業療法を展開していく上で役立ったので考察を加えてその結果を報告する。
【症例紹介】
 A氏50歳代女性。平成13年ALSと診断される。一人娘が遠方に在住。平成18年8月人工呼吸器装着目的で入院。人工呼吸器装着後は、終始ベッド上で過ごし意志伝達手段としては口唇の動きを読む、または文字盤を使用していたが、読み取りには時間を要した。ADLは全介助レベル。
【方法】
 OPHI-IIの手引き書をもとにベッドサイドにて約30分(計6回)の面接を実施。意志伝達手段は「伝の心」を使用し口唇でタッチセンサーに触れることで入力した。質問に対しA氏が回答を入力し、随時追加質問しながら内容を深めていった。
【結果】
 1.A氏はこれまでの生活史のなかで人生を自分で決定し実行してきたことや、娘を育て上げたことに誇りを持っている。2.これまでテニスサークルや絵てがみ等の楽しみ活動に積極的に参加してきた。3.現在の生活には満足していないが、具体的に実現可能な「起きたい、食べたい」という希望がある。4.今の心の持ちようを「思っていることを素直に出すことが大切」と本音を交えて語った。以上の結果より、A氏はこれまでの人生において望みを実現する行動力があること、また現在の生活に対する希望があり、それを叶えようとする気持ちを持ち続けていることがわかった。また、こうした自身の思いの語りは、「車椅子へ座り、散歩に行く」「色々な味を楽しむ」という具体的な行動変化を実現するきっかけともなった。
【考察】
 A氏は障害により量的にも質的にも自身の思いを語る機会が減少していたが、OTRはOPHI-IIを通してA氏の希望を知ることができた。面接がA氏の生活史についてであり、その人を理解しようとする姿勢はA氏にも受け入れやすかったと考える。またA氏の自尊感情を話題にした語り合いはA氏の自信を強め、生活に介助を要し負い目を感じやすい状況にあると思われるA氏の、本来持っている強さを認識する機会となり、このことが目標を掲げ実現していくことにつながったのかもしれない。さらに、OPHI-IIは半構成的な面接であり、ふんだんに語ることのできないA氏にとっても意味のある情報を効率よく交わすことができ、情緒的に豊かな時間を共有できたと考える。ALS患者にOPHI-IIを用いたことは作業療法を進めていく上で役立ったと考える。

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© 2007 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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