九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 025
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リフト移乗を再獲得した重度ALSの一症例
*内田 正剛河添 竜志郎鈴木 圭竹内 久美田尻 美穂
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抄録

【はじめに】
 当事業所は独立型の訪問看護ステーションであり、訪問を通して生活支援のための福祉用具の導入に関わることも多い。今回我々は、身体機能の変化等によりリフト移乗を中止していた症例に対し、吊り具の調整とリフト操作方法の再検討により再導入に至る経験ができた。経緯や吊り具の調整方法などについて若干の知見を得たので報告する。
【症例紹介】
 N.O氏、33歳男性診断名:筋萎縮性側索硬化症(H16.6診断)。現病歴:H2歩行困難、筋力低下が徐々に進行、H12呼吸不全となり気管切開、H15人工呼吸器開始、同年呼吸停止し低酸素脳症発症し意識レベルJCS300の寝たきり状態。H17.10.14より全身状態の維持管理を目的に当ステーションの訪問看護・訪問リハビリテーションが開始となった。
【経過】
 訪問開始時の家族の希望として、ベッドからのリフト移乗の再開と訪問入浴時の安全性の確保、介護者の負担軽減のためのリフト使用があった。しかし、リフト使用を中止するまでの吊り下げられた姿勢は座位姿勢に近く、著しい低血圧と頚部のコントロール不良によりそのままでは再開は困難であった。主治医や家族と共に現状でリフト移乗が可能な姿勢の確認をおこなった結果、仰臥位で水平に近く、頭頸部に無理な屈曲を強いらない姿勢であれば可能との結論となった。直接本人で試行ができなことから、事業所内スタッフ間で吊り具の調整方法や手順の確立を図った。結果として脚分離フルサイズ吊り具で水平位に近づくよう長さを調整し、ネックサポートの使用で頸部への負担軽減を図った。また、リフトで吊り上げた際の吊り具の張力が足側へ偏重することを防止するために、両膝窩部にクッションを入れ屈曲位保持させた。H18.1から母親とともに症例への試行を実施し良好な結果となった。その後、訪問時に母親への吊り具装着、操作方法の指導を継続し、H18.3には母親一人でも操作可能となり、ストレッチャーへの移乗や訪問入浴へのリフト使用など生活内へ導入となった。
【考察】
 リフトや吊り具等の福祉用具は、対象者の身体機能や用途に合わせ選定、調整、適応する段階付けが必要である。これらは症例の状態変化においても検討調整が繰り返し求められる。生活支援とはその対象者と福祉用具と環境を組み合せてプランニングすることであり、訪問リハビリテーションにおいて我々セラピストは生活の可能性を見出し、実現する役割が求められると考える。

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© 2007 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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