主催: 社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 , 社団法人 日本作業療法士会 九州各県士会, 主管 社団法人 鹿児島県理学療法士会, 主管 鹿児島県作業療法士会
【はじめに】
端座位での側方重心移動動作は立位や歩行との関連性を想定して、脳卒中片麻痺患者の運動プログラムに頻繁に取り入れられている。しかし、端座位での重心移動に伴う体幹の対応と実際の歩行や立位との運動学的検討が十分に行われているとは言えない。今回我々は、非麻痺側への側方重心移動動作に着目し、端座位・立位における体幹の運動学的対応に関して検討したので報告する。
【対象】
対象は、片手接地での片脚立位が可能な脳卒中片麻痺患者8名(平均年齢64.1±9.3歳。以下、片麻痺群)、健常者8名(平均年齢27.8±6.1歳。以下、健常群)で、片麻痺群は非麻痺側への動作のみの8側を、健常群は両側への動作の16側を計測した。
【方法】
端座位・立位の各肢位における側方重心移動動作を後方より撮影し、非移動側の骨盤挙上角(以下、PT)と体幹の立ち直り角(以下、TT)を計測した。PTは床面に対する両側上後腸骨棘を結ぶ線のなす角とし、TTは両側上後腸骨棘を結ぶ線と両側肩峰の結ぶ線のなす角とした。
端座位での動作は、両腕を組んで足底接地した肢位から、両肩の平衡を保ったまま側方へ重心移動を行うよう指示した。立位での動作は、測定用に接地した台に20cm開脚した状態で移動側のウォーカーケインに手を置いた肢位より、非移動側の踵を挙上するように重心移動した両脚立位(以下、両脚立位)と、非移動側の台を除去した片脚立位(以下、片脚立位)の姿勢を保つよう指示した。
統計学的処理は、2群間の比較は対応のないt検定を用いて行い、端座位と立位における関連性の検討はスピアマンの順位相関係数を用いて行った。
【結果】
1)2群間の比較に関しては、端座位におけるPTとTTにおいて、いずれも健常群に対し片麻痺群が低値を示した(P<0.01)。また、片脚立位のPTにおいては、健常群に対して片麻痺群が高値を示した(P<0.05)。
2)端座位と立位の関連性に関しては、片麻痺群のPTにおいて、端座位と両脚立位との間に有意な相関関係を認めた(rs=0.90、P<0.01)。
【考察】
結果1)より端座位での動作では、「片麻痺群は麻痺側の骨盤挙上や体幹の立ち直りが困難である」といった吉尾らの報告と同様の結果を示した。これに対して立位での動作は、片脚立位における片麻痺群のPTのみが健常群より高値を示す結果となった。この要因として、片麻痺患者では片脚立位における麻痺側下肢の空間保持を骨盤の引き上げによって代償していることが推測された。
結果2)より片麻痺群における端座位と両脚立位のPTに関連性が認められた。端座位での動作に関して、鈴木らは筋電図分析より非移動側体幹機能の重要性を述べている。また、両脚立位での動作は歩行時の荷重反応期と類似した動作であることから、非移動側体幹機能が荷重反応期の重心移動に伴う骨盤帯の対応に影響を与える要因であると推測された。