主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士会九州各県士会
【はじめに】
本研究では、AVタキストスコープ(IWATSUアイセック社製)を用い、注意障害のない健常高齢者の左または右半側から聴覚刺激、視覚刺激を提示した時の反応時間(RT、単位はms )を求め、左右弁別課題における視覚性注意機能と聴覚性注意機能の差について比較検討した。
【対象】
対象は通所リハビリテーションを利用しており、整形疾患等はあるが、認知症や注意障害がなく、指示理解が可能で日常生活において視覚および聴覚に特別な障害がない健常高齢者8例(年齢:78.1±4.9歳、男:女=7:1、HDS-R:26.9±2.4点)であった。なお、対象には研究に関して事前に十分説明を行い、同意を得ている。
【方法】
対象に、AVタキストスコープのモニタまたはスピーカを通して、左または右半側からアトランダムに提示される刺激に対し左右を弁別し、できるだけ早く正確に対応する左または右の反応キーを押すように指示した。刺激の条件は、聴覚刺激としてWhite Noise(20-20KHz、60dB)を聴かせ、視覚刺激として赤い●印を見せた。刺激の回数と頻度は1クールを各条件40回とし、休憩を入れ、5クールの計200回施行した。
【結果】
聴覚刺激に対する聴覚性注意の反応時間(RT-A)は839.15±242.24msであり、視覚刺激に対する視覚性注意の反応時間(RT-V)は756.54±193.63msであった。これらにおいて1%危険率で有意差がみられた。また、RT-A とRT-Vのデータを刺激の提示位置(左右)別に分けたところ、RT-A(左)は879.32±245.36ms、RT-A(右)は798.98±232.47msであり、RT-V(左)は756.72±185.22ms、RT-V(右)は756.33±201.90msであった。RT-Aには1%危険率で有意差がみられたが、RT-Vには有意差はみられなかった。
【考察】
今回、聴覚性注意と視覚性注意によるRTに有意差がみられた。これは空間において求められる注意の焦点化の大きさと関係するものと思われる。すなわち、より先鋭的な注意の焦点化が可能な視覚性注意と注意の広範化に適した聴覚性注意の特性の差が現れた結果であると考えられる。また、空間認知において聴覚性注意にのみに左右差が見られたことに関して、健常高齢者の聴覚性注意には空間認知に関する注意の右大脳半球の優位性(Heilmanらの研究(1984)、Ladavasらの研究(1989)等)が見られる可能性が示唆された。