九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 111
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多彩な高次脳機能障害を呈する頭部外傷者への更衣動作アプローチ
~長期的な関わりの必要性~
*玉那覇 迅渕 雅子
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抄録

【はじめに】
今回、発症後1年経過した身体、高次脳機能障害共に重篤でADL全般に介助を要する頭部外傷者を担当した。約1年当院で治療実施しADL全般に改善がみられ、中でも更衣は積極的に介入した為、経過と考察を報告する。
【症例紹介及び経過】
20歳代男性で平成18年3月、交通事故で外傷性脳挫傷、右片麻痺を呈し平成19年3月当院へ転院。MRI所見は両前頭葉に脳軟化、右視床、左基底核、放線冠、側頭葉等に多数T2短縮域。入院時身体機能はBr.stage上肢3手指2下肢3、感覚は右上下肢共に表在深部に中等度鈍麻。ハ゛ランスは動的座位は後方への崩れ、静的立位は右下肢荷重困難で右側後方へ崩れが著明。高次脳機能は記憶、注意、抑制障害や視知覚障害を認めMMS23点、コース立方体組み合わせテストIQ44。ADLは食事自立、整容見守り、その他中等度~多介助レべルでBIは55点。治療はADL改善を目的に実施し平成20年3月退院時、身体機能はハ゛ランスが座位、立位の静的動的共に安定。高次脳機能は各机上検査にて改善しMMS25点、コース立方体組み合わせテストIQ49。ADLは排泄、整容自立、更衣見守りでBI70点と改善した。
【初回時更衣分析】
被りシャツを主体に実施。着脱手順は理解しているが、衣服の前後が分からず何度も表裏する。また右上肢の袖通し時衣服を左上肢にて忙しなく上げる為に袖口を誤り、それを繰り返す等、衣服の認知低下を動作性急さが更に困難を助長させていた。また袖通しが不十分で外れる、衣服に上肢、頭部を通す際に無理に引き伸ばし姿勢が崩れる等、自己身体認識低下と運動方向の混乱、過剰努力がみられた。
【介入計画】
安定した姿勢で視覚‐体性感覚より自己身体認識改善を図る。また衣服を落ち着いて認知し、身体へ適合する際に適切な力と運動方向を誘導する。治療は約10ヶ月実施。
【経過】
準備段階で筋緊張調整し姿勢を安定させ右上肢支持機能訓練の中で認識改善を図った。実際場面では、初めに机上で衣服を広げさせ自己身体との関係を確認し運動イメーシ゛を促した。次に右上肢袖通しを初め介助で行い運動方向を伝え、そして左上肢で適切な力でその運動感覚を再現させた。随時、頭部、体幹が衣服へ適合する様、姿勢を調節した。そして、左上肢の過剰運動を抑制する為、順序変更し左上肢を先に袖通しを実施。結果、左上肢袖通し時に声かけのみで自力にて可能となった。
【考察】
本症例は抑制障害を主体とした視知覚、記憶障害や自己身体認識低下により更衣動作全般に影響を与えていた為段階的に認知~行為に至るまで介入した。安定した姿勢で、衣服と自己身体の関係性、力と運動の方向性を伝える事で動作性急さが改善され、更衣に要する複雑な認知が機能したと考える。また、検査上著明な変化はなかったがADLは改善し、本症例の様に重篤である程、長期的な介入が必要であると考える。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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