主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士会九州各県士会
【はじめに】
ロングステイから在宅復帰を果たし、生活のしづらさを抱えながらも地域の中で暮らす本人及びその家族に訪問看護として関わり一定の効果を得た。訪問看護の経過に考察を加えて報告する。
【症例紹介】
40代後半、女性、統合失調症。高校卒業後に不眠、空笑が出現し、未治療のまま自宅で無為自閉の生活が10余年続く。30代後半の時、精神症状の悪化に伴い、A病院に初回入院。同年、当院に転院し、約12年間の入院生活を送るが、一昨年、家族の経済的事情により自宅退院となる。自宅では脳梗塞により療養中の弟と二人で生活している。
【経過】
退院から約半年経過後、同居する弟より「(本人が)退院しても家で何もできないし、何もしようとしない。現状のままだと家族の心身の負担も大きく困る」との相談がある。現状の生活全般について評価を行い、後日、本人、家族を含めた関係者で話し合いを持った結果、余暇活動の充実や家事能力の向上を目指し、隔週土曜日の午前中に作業療法士(以下OT)が訪問看護を行う。プログラムは自宅近くの運動公園を利用してのウォーキングと自宅のトイレ掃除、洗濯の練習を実施。ウォーキングは本人が今後一人で出かけた場合、途中で迷子や失禁することを心配していたことからコースを固定し、トイレや休憩所の場所確認を毎回行う。家事は遂行手順を明確化し、一緒に行っていく中で良かった点や工夫点を適宜伝えていく。訪問看護開始から4カ月経過すると、やや安定感には欠けるものの一人でも時々ウォーキングに出かけるようになり、トイレ掃除や洗濯は毎週末の日課として自発的に行うようになる。また、訪問看護の利用開始前には強く拒否して家族を困らせていた入浴もウォーキングで汗を流すことが契機となり、隔日で入浴するようになる(日本作業療法士協会版 精神障害者ケアアセスメント アセスメント表:家事3.3点→4.8点、身のまわりのこと4.0点→4.5点)。当初、希望していた調理活動については障害者自立支援法に基づくホームヘルプサービスの利用に繋げる。
【考察】
本症例はロングステイ後の在宅生活において、何かやりたい気持ちはあるが具体的に何をどのように過ごしてよいのか分からず、結果として、閉居した生活を続けていた。そのような中、本人にとって意味と目的のある作業活動を介することで少しずつ自信とゆとりが生まれ、周囲の必要な援助を受け入れたり、諸々の社会資源を活かしながら地域の中で自ら生活の幅を広げていったと考える。実際の生活場面で本人が必要とする生活技能を効果的に身につけていく上でOTはその人の生活機能全体を明らかにし、自立を支援していくという視点を持って具体的に介入していける一職種であることを再認識できた。
【おわりに】
今後は家族や地域連携機関との情報の共有化を更に図りつつ、心理教育や家族支援にも注力していきたい。