九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 130
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統合失調症を呈した10代男性との関わりを通して
~OTとして12日間で提供できたこと~
*常田 つかさ
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抄録

【はじめに】
 統合失調症を呈した10代男性(以下、症例)を担当し、12日間という短い期間ではあったが、作業療法(以下、OT)への参加や作業療法士(以下、OTR)との交流を通して集団内緊張の程度や交流技能に変化が現れたので経過を整理し報告する。
【症例紹介】
 小学校低学年より不登校や母親への家庭内暴力があり、中学1年より妹への性的暴力を開始。児童相談所の紹介で外来治療が開始され、高校に進学したが精神症状のため登校できず対応困難になったため入院となる。
【初期評価要約】
 注察妄想、思考伝播のため強い集団内緊張、不安が生じ集団での耐久性が低い。病識は未確立で入院に対する不満は強く現実検討能力の乏しさもある。児童期からの不登校が起因して交流技能は未熟であり、主に交流するのは親世代のスタッフで、1対1での交流を持つ傾向が強い。OTRには話し相手を求めながらも一方的で拒否的な言動が目立つ。
【OTプログラム】
1.ビデオ視聴、カラオケ、スポーツ(50人前後で構成される、1つの活動を全員が共有する活動)
2.手工芸(20人前後で構成される、パラレルな場での活動)
3.面接(症例が希望した際に行う)
【時期ごとの設定の変移】
1-3日目:OT、面接ではOTRと1対1の交流・症例のペースに合わせた
4-7日目:面接の時間を設定し、OTでは距離をとった
8-9日目:OT、面接でOTRに加え他のOTRや他患者との交流を促した
10-12日目:退院日が決定したため入院生活全体に関するフィードバックに努めた
【結果】
 OTRを介して集団内緊張が軽減したことにより集団に所属できる時間が延び、パラレルな場では自分のペースで過ごせるようになった。また生じる不安を自分でコントロールする場面も見られるようになった。OTRに対しては一方的な言動は無くなり、意見を求めたり、受容することが多くなった。
【考察】
 OT開始時に見られたOTRに対する症例の一方的で拒否的な態度は、症例の同世代間での交流経験の乏しさに起因していると考える。しかし、途中からOTRが面接の時間を設定しOT中も距離をとって接したため「相手に合わせる」という必要性が生じ、結果として「意見交換をする、相手の会話も聞く」という行為に至ったと考える。
 また全体の関わりを通してOTRは集団内で症例との1対1の関係を保障した。それが、症例の集団内で生じる不安の軽減に繋がったと考えられ、また他患者や他OTRとの交流を促した際にも、その保障された関係の延長上であったため、緊張が持続しながらも所属し場を共有することができたのではないかと考える。現在、症例は外来通院しながら高校に通っている。今回の入院で実際に集団OTに参加できるようになったこと、親世代以外の他者と意見交換をする等の関係を築けたことは、これから先も同世代との集団生活を送っていく症例にとって1つの自信と経験を提供するきっかけになったのではないかと考える。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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