九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 132
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高齢者に対する多角的アプローチの重要性
*井上 由貴子真辺 公彦井ノ口 隼人宮路 範子
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キーワード: 高齢者, うつ症状, 在宅復帰
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抄録

【はじめに】
 敗血症の増悪による長期臥床により筋力低下を呈した症例を担当した。在宅復帰希望強いが、病前から先天性の右変形性膝関節症(以下「OA」と略す)・左膝OA等、自宅での生活に危険を要する。加え、長期臥床による筋力低下のため歩行が困難となった。
 この症例に対し、在宅復帰を目標に関節可動域訓練・下肢筋力増強訓練・マッサージ・歩行訓練を実施。加え、代償的アプローチとして装具の使用や、在宅で利用できるサービスを指導。この経過及び結果を報告する。
【症例紹介】
 80歳、女性。1ヶ月前に腎盂腎炎による敗血性ショックにて、他院からリハビリ目的で当院転院。「既往歴」両膝OA・神経因性膀胱・うつ症状。バルーン使用。右OAは先天性のため実用性なし。「関節可動域」右膝関節屈曲90°。「粗大筋測定」上肢3・下肢3「基本動作」寝返り・起き上がり:軽介助レベル。立位保持:監視レベル。「ADL」FIM:67/126、BI:30/100。悲観的発言見られる。病前は一人暮らしで、手すりとT-Cane使用にて移動していた。週に何度か娘が訪れる。
【経過・結果】
 ベッドサイドにて訓練開始。7日後、歩行訓練開始し、歩行能力向上する。バルーン使用が、歩行・在宅復帰の阻害因子のため、カンファレンス実施し、主治医にその旨を伝えバルーン中止としてもらう。よって歩行距離向上が見られ、悲観的発言が減少。
 2ヶ月後、左膝関節疼痛・熱発が見られた。これにより、感情失禁・うつ症状が見られたので、ベッドサイドにてマッサージ実施し、精神の安定を図るための声掛けも行った。状態が落ち着き、歩行能力も悪化前同様に平行棒内にて十往復程度可能。症例はT-caneを希望していたが、在宅復帰時のリスクと歩行の安定性を考え、T-caneからQ-caneへ変更。歩行距離向上し、笑顔が見られ発話が増加。
 退院に向け、家族指導を実施。3ヵ月後退院検討会を実施し、在宅で訪問看護や訪問リハビリ等があることを説明し、サービス利用のもと在宅復帰となった。
【まとめ】
 病前から両OA等、在宅リスクが高かった。また、症例自身、身体機能に対する執着心が強く、僅かな身体機能低下でも、うつ症状や感情失禁が見られた。このため、身体機能に対するアプローチだけでなく、在宅生活時のリスク軽減・心理的不安に対するアプローチが不可欠と考えた。T-CaneからQ-caneへ変更することにより、歩行距離向上による心理的な不安軽減と在宅生活の中での転倒リスク軽減に繋がった。家族指導や各種サービスを導入する事で在宅復帰が可能となった。
 高齢者の多くは、原因疾患だけでなく、加齢に伴う身体機能の低下や、合併症を併せ持つ人が少なくない。高齢者にとって、心理的不安軽減や装具・サービス利用による活動レベルの向上は必要だと考える。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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