九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 15
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ポータブルスプリングバランサーを使用した食事動作解析
-動作解析装置と筋電図解析装置を用いて-
*角 裕之池田 聡
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抄録

【はじめに】
ポータブルスプリングバランサー(PSB)は重度の運動麻痺患者の机上動作を援助する上肢保持用補助具である。今回、PSB使用時の食事動作における上肢各関節の位置変化と筋活動を解析し若干の知見を得たので報告する。
【方法】
対象は本研究に同意を得られた健常者5名(男性3名,女性2名,年齢25.2±3.7歳),課題動作は皿上の大豆をスプーンを使い2回連続して食べる,解析データは2回目のすくい取り-摂食-皿上に置くまでとし,PSB非使用(-)とPSB使用(+)の二方法を行った。測定環境は椅座位にて上腕部下垂,肘90°屈曲位をテーブルの高さとしテーブル手前より体中央30cm前方に皿を置いた。PSB(300G)は付属のゲージで上肢の重量を測定し補助力を50%に設定,使用時は補助力を最大限に利用した動作になるよう指示した。測定は磁気式三次元動作解析装置(Polhemus社製,3Space-Win)と筋電計(日本光電社製,MEB-9104)を同期させて行った。磁気センサーは上腕・前腕の基本軸・移動軸上にセンサーを取付け,肩・肘・前腕の角度変化をサンプリング周波数30Hzで測定,成分角・相対角を人体モデルとして算出した。表面筋電図は電極間2cm,皮膚インピーダンスを5kΩ以下に前処理し三角筋前部繊維(DA)・中部繊維(DM),上腕二頭筋(BC),上腕三頭筋(TC)よりサンプリング周波数100Hzにて導出した。データは全波整流,平滑化したのち各筋の平均積分値(IEMG)を求めPSB(+)をPSB(-)で除した%IEMG(PSB比)を算出した。角変位と筋活動のデータは時間軸の正規化を行い統計処理はWilcoxonの符号付順位検定を用い優位水準は5%未満とした。
【結果】
各関節の三軸の運動は両方法共に同様のパターンを示し滑らかな動きであり,肩関節屈曲・外転角では最大値・最小値・可動範囲でPSB(+)が大きく,肘関節屈曲角は最大値でPSB(-)が大きく有意差がみられた(p<0.05)。筋活動は両方法共にDA・BCで著しくDM・TCはわずかな振幅であった。各筋の平均IEMGは測定筋すべてでPSB(+)が小さく有意差がみられた(p<0.05)。PSB比はDA54.8±10.9%,DM67.1±11.2%,BC 54.2±11.1%,TC55.3±8.2%であった。
【考察】
角変位よりPSB(+)での肘屈曲角の最大値の低下は前腕カフの調整の影響と考えられた。筋活動による肩・肘関節の解析ではDAとBCが主要な働きをしておりPSB比よりPSB(+)で50%以上の筋活動量の低下がみられた。BCのPSB比の低下はPSBの肩屈曲・外転の補助力による二次的に重力を除した肘関節運動のためと思われる。これら健常者による食事動作解析の結果からPSBは正常な動きを妨げることなくスプリング調整によって,肩・肘関節運動の適度な補助を行い机上動作を可能としていると考えられる。今後は被験者を増やすことで詳細な解析を行っていきたい。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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