九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 210
会議情報

麻痺手の忘れに対する介入 
~一事例を通して~
*沢田 大明渕 雅子
著者情報
キーワード: ADL, 麻痺側の忘れ,
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】
ADLで麻痺手の忘れが頻繁にみられた事例に対し,手への注意を促す事でADL場面での改善がみられたので経過を踏まえ報告する。
【事例紹介】
 H19.8.25に左MCA梗塞により右片麻痺を呈した70歳代の女性。Br.stage3レベルで感覚は軽度鈍麻。バランスは動的座位で介助を要す。精神・知的機能面はMMS9/30,コース立方体IQ55。神経心理学的検査で右身体失認,右半側視空間無視,注意障害,中等度の運動・感覚性失語を認めた。ADLはBI40/100点で食事・整容以外に介助を要した。基本動作で頻繁に麻痺手の忘れや敷き込みあり。その際に声かけで麻痺手への注意を促すが視線を麻痺手へ向けるのに時間を要した。車椅子駆動では右側へのぶつかりが著明。
【麻痺手の忘れに対する評価と介入計画】
 動作の際,麻痺手は重度の運動麻痺の為,背部や殿部に敷き込んだ状態になる事が多く,声掛けに対し,麻痺手に視線を向けようとするが探索に時間を要し,何度も促すが修正は困難であった。これは,動作を病前の麻痺のない右手として行っており,麻痺手の障害を考慮した動作が定着していない事が原因だと考える。介入として,麻痺手への注視を促し,無意識化の動作として行う為にも麻痺側への荷重として体性感覚入力を行い,忘れの改善を図っていく。
【介入経過】
まずon elbowでの体重負荷を伴った課題を中心に右空間への追視・注視課題を実施し,両手協調動作としては長手袋を使用した課題を行った。徐々に能動的な体重移動が麻痺側へ行え,指穴への指通しが円滑になり,袖通しの際に能動的に上腕部まで注視が行えるようになった。しかし,麻痺手に視線を向けやすくはなったが,ADLで麻痺手を忘れるなどの場面は依然としてみられていた。そこで,ADL場面への介入も行った。経過で,寝返りの際に非麻痺側で麻痺手を腹部上に置く動作が定着し,座位での靴着脱時に非麻痺側で麻痺手を右大腿上に置くなど敷き込む場面もみられなくなった。
【介入後評価】
身体機能面で右上下肢の若干の随意性改善あり。精神・知的機能面はMMS17/30,コース立方体IQ77。神経心理学的検査は,注意障害,中等度の運動・感覚性失語を認めた。ADLはBI85/100で入浴・歩行・階段昇降以外は車椅子レベルで修正自立。基本動作で麻痺手の忘れや敷き込み,車椅子駆動での右側のぶつかりもほぼみられなくなった。
【考察】
今回,麻痺側への荷重を伴った右空間・手への注視課題を通して,麻痺手へ視線が向きやすくなり麻痺手を意識した動作が定着してきた。長手袋課題では指入れなどの際に視線を向けながら通す必要があり,それが能動的で持続的な麻痺手への注視を促せたと考える。又,それらを行いながらADL場面への介入を行った事が無意識化での麻痺手を忘れない動作の学習に繋がったと考える。

著者関連情報
© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top