九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 9
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脳卒中片麻痺患者の座位からの歩き始め動作における姿勢制御
運動力学的な分析
*長田 悠路
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抄録

【はじめに】
近年、課題指向型アプローチが注目されている一方で、歩行関連動作の分析は単一動作にのみ注目され、日常行われる座位からの歩き始め動作を運動力学的に分析した研究は少ない。脳卒中片麻痺患者では、起立のみや歩き始めのみであれば安定しているが、起立後から一歩目離地(以下F.O)までには一定の重心制御期間を必要とする症例が多い。今回この座位からの歩き始め動作を三次元動作解析装置にて計測し、歩行自立度との相関から若干の知見が得られたので報告する。
【対象】
著名な関節可動域制限や高次脳機能障害を有さない脳卒中片麻痺患者10名(年齢60.3±13歳、発症後期間244±489日、身長161.3±8.1、体重59.9±15.7Kg)。歩行自立度は屋内外自立4名、屋内自立3名、屋内見守り3名。
【方法】
40cm台に座り、両手を下方に垂らした状態から前方5m先まで歩く課題を、3次元動作解析装置(VICON MX)・床反力計(AMTI社製)にて計測した。分析期間は離殿から一歩目の下肢(麻痺側)の床反力鉛直方向成分が0になるまでとし、抽出された運動力学的数値をPearsonの相関係数を用いて歩行自立度との間で検定した。なお歩行自立度は屋内外自立、屋内のみ自立、屋内見守りの三段階に分け、同じ段階内では10m歩行スピード順に並べた。また、観察された2種類の動作パターン間で運動力学的数値をStudentのt検定で比較した。
【結果】
自立度向上に伴い、離殿・F.O間の時間が減少し(P<0.01)、進行方向床反力、進行方向加速度の最大値が増加した(P<0.05)。また、非麻痺側膝関節伸展モーメントは減少し(P<0.05)、非麻痺側足関節底屈モーメントは増加した(P<0.05)。そして動作パターンとしては下記2種類が観察された。A:起立と歩行開始が並行(屋内外自立3名、屋内自立2名)、B:起立後に歩行開始(屋外自立1名、屋内自立1名、屋内見守り3名)。A・B間の比較では、AがBと比べて離殿・F.O間の所要時間が短く(P<0.01)、F.O時体幹前屈角度が大きかった(P<0.05)。
【考察】
今回脳卒中片麻痺患者の座位からの歩き始め動作を分析することで歩行自立度向上に伴い重心前上方移動能力が向上し、動作パターンがBからAに変化することが示唆された。Aは重心を最短距離で移動する効率化されたスピード重視パターンである。一方Bは前方への大きな加速度を生じない、重心を安定性限界に保持したまま動作を行う安定性重視パターンである。Bでは起立時に過度な膝の伸展が出現し、足関節を軸に身体を前方回転させる戦略がとれないのではないかと考えた。これは課題に対する恐怖感や、起立動作概念に対するイメージが膝の伸展運動と強く結び付いていることも考えられる。今回の結果より、効率的な重心移動という点でAが優れているため、動作をより機能的に行うためには非麻痺側膝関節の過度な伸展モーメントを生じる運動連鎖を断ち、足関節制御を使った前方への倒れこみにより効率的な重心前上方移動能力を養う必要があると考えた。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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