九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 103
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前腕回外制限が肩関節外転運動に与える影響
瞬間中心と肩甲骨の可動性に着目して
*羽田 清貴徳田 一貫阿南 雅也
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抄録
【目的】
 肩関節は胸郭上に浮遊する関節であり,体幹と上肢を連結する部位に相当するため,様々な因子が肩関節の機能に影響を及ぼす.加えて,肩関節疾患を有する症例において,前腕回外の可動域制限を有していることが臨床上しばしば経験される.そこで,本研究では前腕回外制限が肩関節外転運動にどのような影響を及ぼしているか検討することを目的として実施した.
【方法】
 被検者は肩関節に既往がない健常成人6名(平均年齢25±1.2歳)とした.測定肢位は端坐位,座面の高さは下腿長とした.長さ32cmの棒の両端にマーカーを取り付け,第3指が棒の中点とし第2~4指で棒をかけるように保持した.下垂位から肩関節最大外転位までの肩関節外転運動(以下,通常条件)と,前腕近位部にキネシオテープを巻き5~10°程度の前腕回外制限を作りだした状態での肩関節外転運動(以下,制限条件)の2条件で実施した.これらの運動を肩峰の高さに設定したデジタルビデオカメラにて前方より撮影し,画像解析ソフトImageJ(NIH社製)にて, 30°毎の瞬間中心座標を計測した.また,肩甲骨の可動性はTh3棘突起から肩甲骨上角,Th3棘突起から肩甲棘三角,Th7棘突起から肩甲骨下角までの距離を,下垂及び最大外転位で測定した.
【結果】
 制限条件では,開始肢位の肩甲骨アライメントにおいて内転・内旋位が3名,下方回旋位が2名,内転位が1名と全ての被検者で内転・下方回旋方向へのアライメント変位がみられた.通常条件では肩甲上腕関節を中心として肩甲帯へと移動しているのに対し,制限条件では,肩甲上腕関節に瞬間中心が収束している傾向がみられた.また,肩関節外転運動時の肩甲骨の可動性は,肩甲骨の動きが大きかったのが3名,肩甲骨の動きが小さかったのが3名であった.
【考察】
 上田らによると瞬間中心は臨床において視覚的に観察可能であり,身体運動がその関節のみで生じたか否かを判断する目的では評価可能であると報告している.今回の結果から制限条件では,肩関節外転運動における瞬間中心が肩甲上腕関節へ収束していたことから,肩甲上腕関節の負担が増大していることが推察された.また制限条件では,上肢下垂時の肩甲骨が内転・内旋位を呈したが,これは前腕が回内方向へと誘導されることに対して上肢の空間的位置を補正するために肩関節が過外旋し,運動連鎖として肩甲骨が内転・下方回旋位を呈したと考えられた.そのアライメントの変位は,関節窩に対する骨頭の適合性の低下により肩関節外転運動時の求心位保持が困難となる可能性が推察された. 以上のことから,前腕の可動性の低下は静的な肩甲骨のアライメントを変位させ,補償動作として単一関節への過度な負担へとつながることが示唆された.
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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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