九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 113
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上肢挙上動作における前鋸筋と外腹斜筋の筋活動の関係
*百瀬 あずさ永井 良治
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抄録

【目的】
 脳血管疾患による片麻痺患者を担当し,前鋸筋と腹筋群を中心に理学療法を実施することで肩関節屈曲の可動域やADLに改善がみられた.このことから,上肢挙上動作での前鋸筋による肩甲骨の上方回旋を生じさせるためには,腹筋群による胸郭の安定性が必要ではないかと考えた.
 そこで,胸郭の安定性に着目し,上肢挙上動作における前鋸筋と腹筋群の筋活動の関係について研究を行ったので報告する.
【方法】
 対象者は健常男性6名(年齢:21.7±0.5歳,利き手:右)とした.対象者には研究内容を説明し同意を得た.開始肢位は骨盤中間位の坐位姿勢で,肩関節屈曲90度,肘関節伸展位とした.体重の0%,5%,10%の重錘を前腕遠位部に負荷し, 5秒間姿勢を保持した.2回ずつ行い,積分値を算出した.被験筋は前鋸筋,外腹斜筋,腹直筋とした.測定機器は表面筋電図(DELSYS The Bagnoli EMG System)を用いた.徒手筋力検査の肢位において抵抗を加え各筋の最大随意収縮(Maximum Voluntary Contraction,以下MVC)の積分値を算出した.各筋のMVCの積分値を100%とし,各動作における積分値で除した%MVCを算出した.
 統計的処理は,一元配置分散分析,多重比較検定,ピアソンの相関係数の検定を行い,有意水準を5%未満とした.
【結果】
 前鋸筋と外腹斜筋の%MVCは負荷量0%と比較して10%で有意に高値を示した.腹直筋では有意差を認めなかった.また,前鋸筋と外腹斜筋の筋活動,外腹斜筋と腹直筋の筋活動において正の相関を認めた.前鋸筋と腹直筋の筋活動においては相関を認めなかった.
【考察】
 前鋸筋の起始部である胸郭の安定性が十分な状態で前鋸筋の求心性収縮が生じると,肩甲骨上方回旋が起こる.しかし,起始部である胸郭の安定性が不十分であると,胸郭の反対側への回旋が生じることになる.つまり,同側の外腹斜筋により胸郭が安定することで前鋸筋による肩甲骨上方回旋が可能になると考えられる.
 本研究では負荷量増加に伴い前鋸筋と外腹斜筋の活動が増加し,正の相関を認めた.このことから,上肢挙上動作において負荷量増加による前鋸筋の活動増加に伴い,前鋸筋の起始部である胸郭を安定させるために同側の外腹斜筋の活動も増加したと考えられる.次に,前鋸筋の活動増加時において腹直筋の活動増加,相関がない理由を筋線維の走行から考える.前鋸筋と外腹斜筋においては,筋線維走行が一致しているが,前鋸筋と腹直筋に関しては一致していない.このため,負荷量増加により前鋸筋の活動量が増加すると,筋線維走行が一致している外腹斜筋の活動は増加するが,腹直筋の活動は増加せず,正の相関を示さなかったと考えられる.
 本研究から,上肢挙上動作における肩甲骨の上方回旋には同側の外腹斜筋による胸郭の安定性が必要であることが確認された.

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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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