九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 012
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社会適応行動が変容した軽度精神発達遅滞の1症例
*遠山 さつき宮本 清香臼杵 扶佐子
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キーワード: 精神遅滞, 社会性, 行動変容
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抄録

【序論】
 外来リハ利用により社会適応行動が変容した軽度の精神遅滞を伴った水俣病認定患者の男性例を経験した。その介入方法と行動変容の経過を報告する。なお、この報告は当事者の同意を得、かつ、当センター倫理委員会より承認を受けているものである。
【症例紹介】
 50代の男性。難聴、軽度精神発達障害があり、20代に水俣病と認定。6人兄弟の末子として誕生。症例が30代の時、父他界。母と三女は2年前より身体障害者施設へ入所。他兄弟とは交流がなく独居。外来リハ利用開始時、WAIS‐RにてVIQ:53、PIQ:66、IQ:57。行動は自己中心的で性急さが目立ち、集団での場と活動の共有が困難で他者とのコミュニケーションスキルの低下が目立った。
【外来リハ利用状況】
 H18.8より利用開始。週1~2回(約3時間/回)。
【介入と行動変容の経過】
 第1期(利用開始時H18.8~):興味の転導が激しく、行動に粗雑さや性急さが見られた。作業中にリハ室を離れる、公共の面前で放尿するといった行動が見られ、他者を意識した行動が欠如していた。交流は二者関係で一方的であり、地域に相談者はいないようであった。スタッフは症例をあるがまま受け入れ、相談相手となった。また、不快な行動に対し一緒に考え、適切な行動は褒めるようにした。第2期(第三者との交流の芽生えH19.1~):他者との場の共有が可能になりリハ室を離れなくなった。スタッフは、用具等の準備や片付けを共に行い、他利用者と同じ作品を作る体験も徐々に取り入れた。他利用者との交流が芽生え、三者関係での相互の交流が可能となった。第3期(集団との交流の芽生えH19.03~):次の作業工程へ他者と同時に移るために待つという行動が見られ、性急さが軽減した。集団との交流が可能となり、居住地での交流の拡大を示す内容の話が多くなった。第4期(社会適応の芽生えH19.11~):作業について助言を求め問題解決を図るようになった。社会生活上の相談が多くなり、問題解決の方法を求めるようになった。スタッフは、問題の解決方法を症例と共に探し、時には付き添い、症例のコミュニケーション面をサポートした。症例は地域に相談者を求め活用できるようになった。
【考察】
 症例の関心が二者関係から三者関係、そして集団へと向けられるようになった各時期、常にスタッフが介入している。新しい交流の開始場面で、スタッフが必ず介入していたことがその場に居場所を作り出し、あるがままに受け入れられるという安心感を与えていたと考えられる。社会参加が少ないことによる社会生活スキルの低下は、他者との交流を困難にする。個人の行動に専門的な視点で寄り添う介入は、症例の社会的障壁を軽減し、社会適応行動の変容に有用であった。

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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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