九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 192
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毛筆および硬筆における体幹・肩甲帯の移動量の違い
*佐藤 彩子植野 拓本多 亮平塩貝 勇太清水 一
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抄録

【目的】
 書字動作は作業療法でよく用いられる課題であり、毛筆と硬筆は治療場面で使い分けられている。これらの特性の違いは何か、今回、毛筆および硬筆において、体幹と肩甲帯は各々どの程度移動しているのかを比較した。その結果から対象者の特性に見合った治療手段の選択に役立てられないか検討した。
【方法】
 対象者は同意が得られた成人男女10名で右利きである者。課題は5cm間隔で引かれた横線を標的線とし、毛筆は書道で使用する一般的な中筆、硬筆はマジックペンを使用して標的線になぞって線を引くこととした。被験者が座る背もたれなしの椅子の高さは42cm、机の高さは69.5cmとした。課題実施前に被験者の最大リーチ範囲を測定して、その区間内を課題遂行範囲とした。三次元動作解析装置(POLHEMUS社製3SPACE FASTRAK)により毛筆・硬筆課題遂行中の体幹(胸骨上端)と肩甲帯(右肩峰)の空間位置情報を得、データを比較した。統計処理は反復測定による分散分析を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】
 課題実施時の累積移動距離を被験者が引いた軌跡線の長さで徐し、軌跡線の長さ1cmあたりの移動量として各課題間の体幹と肩甲帯の移動量を統計処理により比較すると、体幹は毛筆時の方が移動量は大きく、肩甲帯は硬筆時の方が移動量は大きかった(p<0.01)。課題遂行時の前後・左右・上下方向の移動量を全体の平均値(単位:cm)として示すと、体幹の絶対移動幅は毛筆では前後3.7、左右13.4、上下1.3、硬筆では前後3.9、左右10.1、上下1.6であった。肩甲帯の体幹に対する相対移動幅は毛筆では前後1.0、左右0.8、上下1.3、硬筆では前後1.3、左右1.1、上下1.8であった。
【考察】
 本研究の結果から、毛筆は硬筆と比較して体幹の移動量が大きいことが示された。しかし、毛筆は体幹の累積移動距離は大きかったが、前後・上下への絶対移動幅は硬筆と比較して小さかった。毛筆時には目的動作達成のための体幹の横方向への効率的な重心移動が道具使用の反応として得られたと示唆される。また、硬筆は毛筆と比較して肩甲帯の移動量が大きいことが示された。硬筆時には目的動作を行う際に体幹の重心移動に頼るのではなく、肩甲帯の動きの増大が道具特性の反応として得られたと示唆される。
 同じ書字という動作でも、道具の違いにより身体の使い方が変わるということが分かった。治療では体幹あるいは肩甲帯のどちらにアプローチしたいのか、その焦点を当てる際に前述の特性を利用できるのではないかと考えられる。課題に対する使用道具の種類によって引き出される動きが異なるため、道具特性を捉えた上で課題の選択を行うことが作業療法士にとって必要ではないかと考える。ただし、今回の研究は限定された課題内容や環境設定下で行っており、また得られた結果は健常者でみられた動作特性であるため、今後は様々な場面や対象者においても同様の特性があるか検討する必要がある。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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