九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 258
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自立への第一歩
交際女性の応援を受けて
*江口 聰美大久保 美穂
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抄録

【はじめに】
精神科長期入院患者は院内生活が自立していても様々な経験が少なく、自信のなさや不安を抱えていることがある。今回、経験のなさから自発性が乏しく交際女性に頼りがちな統合失調症の症例に対し、基本的家事技能とコミュニケーション技能の獲得を目的に交際女性と離れた環境での調理活動を実施した。その結果、自発性が向上したので報告する。なお倫理的配慮を行い、症例から同意を得ている。
【症例紹介】
A氏。50歳代後半、統合失調症の男性。入院期間は31年。現在は目立った症状はなく、精神療養病棟にて日常生活は自立。病棟内に交際女性(以下B氏)がおり、ほとんどの時間をB氏と過ごす。2人はB氏優位の関係でA氏の自発的な言動はほとんどない。作業療法には週1回B氏と共に参加。スタッフから他活動へ促されるもA氏自身の判断はなく、単独で促されると「俺は何もできない」と拒否が強い。
【方法】
A氏を含む6名クローズドグループの調理活動を週1回、3ヶ月間実施。1つの献立を1ヶ月間繰り返し、簡単なものから段階づけた。活動後半にはミーティングにて気づきを促し、次回に活かせる工夫を話し合った。担当スタッフは病棟Ns1名、OTA、筆者の3名。活動前後にスタッフミーティングを行い、関わり方の確認や気づきの伝達を行った。また、B氏には毎回A氏の様子を報告し、応援を頼んだ。
【経過と結果】
導入時A氏を誘うとB氏が2人での参加に意欲を見せ、A氏の返答はなかった。B氏に「Aさんを優先させて欲しい」と説明すると、B氏の勧めでA氏は単独参加に了承した。この時A氏は「何も作れないけど大丈夫かな」と不安を見せていた。開始直後のA氏は1つ1つの作業に促しを要し、不器用に取り組んでいた。菜箸を探す際に冷蔵庫を開けるなどの無知な行動も多かった。少しずつ作業に慣れ、1ヶ月経過した頃より活動以外の場面で調理についての自発的な発言が聞かれるようになった。病棟ではスタッフとすれ違う度に「目玉焼き18個も作りましたよ」「選ばれているからやらなくては」と達成感や意欲のある発言があり、次第に活動内でも「何事も経験だ」「挑戦してみようか」と不安を抱えながらも自ら判断し行動するようになった。3ヶ月が経過し、病棟での過ごし方に変化はないが、調理を通して見られた変化をきっかけに病棟スタッフとの関わりが増えてきている。
【考察】
今回、B氏を応援役とすることでA氏の参加意欲を維持し、単独での参加を継続できた。それによって自ら判断し行動する経験を積むことができた。調理活動は料理としてすぐに結果が出るが、献立の繰り返しや段階づけを行ったことでA氏は失敗をせず自分の成長を実感し、達成感を得ることができた。また、担当スタッフが最小限の介入で様々な経験をできるように配慮したことも重要だったと考える。今後は観察評価だけでなく、自己効力感尺度などで自信の変化を客観的に見ていきたい。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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