主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士会九州各県士会
【はじめに】
デイケアは病院と社会との境界に位置し同時に,家庭と社会との境界にも位置する.「境界」は,「場所」や「時間」における移行性を内包することから高橋(1996)の「移行モデル」を参考に通所者の社会機能評価を実施し,利用者の社会性とプログラム活動との関連について検討したので報告する.
【方法】
ICD-10より診断されたデイケア通所者75名(男性47名,女性28名,平均年齢51.5±10.9歳,平均罹病期間16.6±13.5年),診断の内訳は統合失調症46名,うつ7名,そううつ5名,アルコール依存症6名,接枝統合失調症3名,適応障害3名,高次脳機能障害6名,とした.クボクリ式デイケア評価表を用いて,各疾患群と総得点(50点満点),下位項目との比較およびデイケア利用頻度との関連より,通所者の社会機能向上のためのデイケアプログラムについて考察を加えた.
【結果】
各疾患群と総得点の平均値との比較では,接枝統合失調症群で低値を示した.適応障害群では総得点が高い傾向であったが,各疾患群と下位項目得点の比較において,「デイケア外での対人交流および社会資源の利用」の項目で低値を認めた.また、総得点とデイケア利用頻度との比較では,週1回以下群,2-4回群,5回以上群はほぼ同値であり,「デイケア外での対人交流」では頻度に関わらず低得点であった.下位項目と利用頻度との比較では,「生活リズム」において週1回群と5回群で有意差を認めた(p<0.01).
【考察】
接枝群における総得点の低下より,同群では知的障害により活動場面においても言語理解や表出が乏しく,社会機能の獲得が困難と思われる.下位項目と利用頻度との比較では,頻度が高い群は参加状況が安定し生活リズムが保たれる一方で,「社会参加」の項目では頻度問わず低値であることから,通所者の生活空間の狭小化が予測される.また,全疾患群においてデイケア外での対人交流が乏しく,今後は対人交流拡大のためのプログラムを検討する必要があると考える.さらに,同項目において週5回以上の参加者の43%が「家族・デイケア内に限られた対人交流」であり,高い利用頻度が通所者のデイホスピタリズム(菅野,1981 )を促進している恐れがある.
以上より,精神科デイケアは薬物療法と精神療法による心理学的介入などの働きを持ち,包括的医療の提供がその役割と考える.その中で,ダニエルス(Daniels,R.S.)はデイケアの治療的機能は,対人関係や社会的機能を強調するものであると述べており,浅野(1996)はプログラム活動はその過程における対人交流のありかたに重点を置くべきとしている.近年,発達障害や統合失調症などの社会生活を困難にする病態基盤として,「社会脳」とよばれる脳神経ネットワークが注目されており,今後は通所者の社会認知機能とプログラム活動の関連について検討していきたい.