九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 26
会議情報

交通外傷により左肩関節痛を発症した症例
心理的要因に着目して
*小牧 隼人小牧 順道
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】運動器疾患へのアプローチは生物医学的モデルから生物心理社会的モデルへの転換が求められている。今回、心理評価を実施しながら身体活動を促すことで左肩関節痛の改善が得られた症例を経験したため報告する。本報告は本人へ説明し同意を得ている。
【症例紹介】67歳、女性。診断名:左肩関節周囲炎、外傷性頸部症候群。現病歴:自損事故で3病日入院。退院後左肩屈曲時痛あり。7病日理学療法開始。既往歴:帯状疱疹。内服薬:ロキソプロフェンナトリウム、塩酸エペリゾン、ニトラゼパム。保険:医療保険。性格:神経質かつ不安が強い。
【初期評価】主訴は洗濯物を干す時に左肩が痛い(VAS:8/10)。部位は僧帽筋上部線維。左胸部に打撲痛もあり。「事故の夢で目が覚めて眠れない」、「頭が混乱している」等の訴えあり。医師に「後日症状が出るかも」と言われ不安あり。「自覚症しらべ」にて、ねむけ感19点、不安定感22点、不快感17点、だるさ感14点、ぼやけ感13点(症状なければ各5点)。呼吸は胸式呼吸で横隔膜・肋骨の動きは左で制限あり。左大胸筋・腰方形筋・脊柱起立筋緊張亢進。静止立位・座位とも骨盤軽度前傾、体幹軽度左側屈・右回旋。左肩関節可動域制限はないが、自動屈曲時肩甲骨の代償と疼痛出現。歩行時左肩内旋、手指屈曲位固定。食事中左上肢は体幹に固定。「痛いから動かない方がいいですか?」との発言あり。
【理学療法経過】左胸部痛、心理的不安により左上肢・体幹を固定し、代償的な肩屈曲により疼痛が生じていると判断。徒手的リラクセーション、呼吸練習、左肩の自動介助運動など患部周囲から開始。食事姿勢や歩行時の腕の振りを指導し、家事は出来る範囲で実施するよう活動を促した。理学療法実施中は心理的支持を心がけ、問題点ではなく改善点を中心に身体状況を説明。症状の改善に伴いバルーンやスリングを利用した自動運動主体の上肢体幹エクササイズへ変更。
【最終評価】3週後挙上時痛VAS:2/10。身体機能に著明な問題は認めず、代償なく洗濯物を干す動作が可能となった。「自覚症しらべ」は、ねむけ感8点、不安定感11点、不快感8点、だるさ感9点、ぼやけ感7点。「身体を動かすと気持ち良い」との発言あり、「孫と一緒に自主練習している」とのこと。「良くなったのでグループの活動に参加できます」と趣味活動も再開。
【考察】問診時の主観的心理評価は精神的苦痛や障害のある患者を識別するには感度と的中度が低く、質問表の使用が推奨されている。また、心理的要因のある患者へは活動の再開を促し、受動的アプローチから能動的アプローチへ変更していくことで活動耐性を向上させることが必要と言われている。本例では「自覚症しらべ」を使用し、身体的な病期に加え心理状態も本人と共有しながら活動を促し、プログラムを変更出来たことが症状の改善につながったと思われた。

著者関連情報
© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top