九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 278
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椅子からの立ち上がり動作の運動戦略とバランス能力との関係
*吉村 恵三福留 英明道祖 悟史渡辺 寛
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抄録

【はじめに】
椅座位からの立ち上がり動作は、日常生活で頻繁に行われる動作の一つである。高齢者は歩行時のみならず、ベッドや車いす、便器からの立ち上がり時に転倒することが多く、起立動作に何らかの特徴を有するのではないかと考えた。そこで起立動作を運動戦略と足圧中心軌跡より分析し、バランス能力との関連性を解析した。
【方法】
対象は本研究の趣旨を説明し、同意が得られた重度の骨関節系および中枢神経疾患を有さない70歳以上の高齢者8名を対象(平均年齢79.6±4.9)とした。計測はビデオカメラ(SONY HDR-520)1台とニッタ社製フットスキャン(以下F-scan)を用いて行った。動作開始姿勢は大腿が床面と水平になる高さの椅子上で、大転子より15cm前方に座面の先端が位置する坐位とし、膝関節屈曲100°、足幅は肩幅程度、上肢は胸の前で腕を組ませた。身体標点として被検者の肩峰、大転子、膝関節、外顆、第5中足骨頭にマーカーを貼付した。運動課題は普段通りの方法での立ち上がりとし、連続3回行わせた。撮影した動画はコンピューターに取り込み、動画解析ソフト(ICPro-2DAヒューテック社製)にて分析した。立ち上がり動作は開始肢位から殿部離床(第1相)、殿部離床から足関節最大背屈位(第2相)、足関節最大背屈位から股関節伸展終了(第3相)までの3相に分類し,各相の股関節、膝関節、足関節の角度を求めた。また動作時の足圧中心(以下COP)移動幅およびCOP最大前方移動距離はF-scanより求め,バランス評価の指標にはBerg Balance Scale(以下BBS)を用いた。
【結果】
BBSの平均±標準偏差(範囲)は41.5±7.4(32-52)であった。BBSと第2相での足関節背屈角度に正の相関を認め(r=0.40)、バランス能力が高いほど第2相での足関節背屈角度が大きかった。また、第2相での足関節背屈角度とCOP移動幅(r=-0.54)ならびに最大前方到達距離(r=-0.50)に負の相関、第2相での股関節屈曲角度とCOP移動幅(r=0.45)ならびに最大前方到達距離(r=0.49)に正の相関を認め、第2相での足関節の背屈角度が大きいほど、COPの移動距離ならびに前方到達距離が短縮した。
【考察】
バランス能力との関連性は殿部離床から足関節最大背屈位までの第2相において特徴が見られた。立ち上がる際、重心は座面から足底面へと前方へ移動するが、バランス能力が低下する程、殿部離床した後の重心移動に足関節の戦略より股関節の戦略を優位に用いていた。この第2相での股関節戦略の優位な運動が、動作時のCOPの移動幅の拡大と前方到達距離の延長を引き起こし、前方バランスの不安定要因となっている可能性が示唆された。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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