九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 296
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THA患者における術前腰椎アライメントと運動機能の関係について
*上村 明子原 光一郎岩川 良彦橋口 円俵積田 光宏福迫 剛砂原 伸彦(MD)
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抄録

【目的】
変形性股関節症(股OA)患者や人工股関節全置換術(THA)後患者にみられる跛行やトレンデレンブルグ徴候の主な原因は股関節外転筋力の低下とされている。また、脊柱アライメントの変化により臼蓋の骨頭被覆は変化し、特に矢状面においては、骨盤前傾姿勢や後傾姿勢によって骨頭の被覆が変化する。この姿勢変化は下肢のアライメントに影響を及ぼし、股関節周囲筋群の活動を変化させることが報告されている。また、X線学的研究により股関節の変性と脊椎アライメントが相互に関連していることは明らかにされている。しかしながら股OA患者の脊椎アライメントが運動機能に及ぼす影響について調べた報告は少ない。本研究の目的は、THA患者の立位姿勢における術前腰椎アライメントを評価し、それが歩行や運動機能にどのような影響を及ぼしているかを調べることである。
【方法】
研究目的に同意を得た一側THA患者のうち初回手術患者33名(男性9名、女性24名、平均年齢62±10歳、股OA:19名、関節リウマチ:10名、大腿骨頭壊死:3名)を対象とした。術後理学療法は当院クリニカルパスに沿って行った。 評価項目として、術前・退院時(術後3週時)の日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下JOAスコア)、歩行獲得時期(手術日より病棟内自立歩行獲得日)、転帰をカルテより収集した。腰椎アライメントの評価は、当院整形外科医の処方により術前に撮影された自然立位での矢状面上の全脊柱X線の画像を用いて腰椎前彎角(以下、LLA)を計測した。本研究では、成人女性の平均LLA 26°を基準にして、26°以上をA群、26°未満をB群とし比較検討を行った。2群間と術前・退院時の各評価項目の比較には対応のないt検定を用いた。また、各項目の相関関係については、Pearsonの相関係数を用いて統計解析を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
本対象におけるLLAは25.1±8.0°(A群10例、B群19例、立位不可にて撮影非実施4例)であった。2群間の比較において、B群の歩行獲得時期がA群と比較して有意に早かった(p<0.05)。術前・退院時における比較では、退院時のJOAスコアの疼痛・外転可動域が術前に比べ有意に高かった (p<0.01)。術前JOAスコアの疼痛と退院時JOAスコアの歩行(r=0.51,p<0.01)、術前JOAスコアの歩行と退院時JOAスコアの歩行(r=0.65,p<0.01)・ADL(r=0.58,p<0.01)、LLAと歩行獲得時期 (r=0.50,p<0.01)に有意な相関関係が認められた。
【考察】
本研究の結果より、術前腰椎アライメントが歩行獲得時期に影響を及ぼしていることや、術前の疼痛や歩行状態が術後の運動機能に関係していることが示された。術後の理学療法を施行する際、股関節のみではなく、術前腰椎アライメントの評価も重要であると考えられた。末期OA患者では腰椎前彎・骨盤前傾姿勢となることが報告されている。本対象の術前LLAの平均値は健常者とあまり変わらなかった。今後、疾患による比較や他関節症状の有無、経時的な筋力評価も考慮し詳細な検討を行う必要性がある。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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