九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 121
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脊髄小脳変性症によりバランス機能低下を呈した症例に対するSETの有用性
*木村 友亮南野 大佑岸本 稔
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抄録

【はじめに】
 本症例は脊髄小脳変性症を呈しており、中枢側優位の失調症によりバランス機能低下を認めていた。そのため、重心移動を伴う身体の安定性を保つことが困難となり、日常生活における家事動作、床への立ちしゃがみが困難な状態であった。そこで今回、バランス機能向上を目的に主に体幹筋に対するSling exercise therapy(以下、SET)を実施し、若干の知見を得たので以下に報告する。
【対象】
 対象は、平成21年1月13日から同年3月30日の期間に外来リハビリを実施し、本研究において同意の得られた40歳代女性。
【方法】
 立位にて腹横筋の収縮を触知し、収縮を感じられた肢位を基本姿勢とした。SETの方法は、上記肢位の状態でSET時のweak linkを確認し、weak linkが出現しない範囲での運動を繰り返し実施した。肢位は、1)膝立ち位、Hanging point(以下、HP)を前腕部、2)膝立ち位、肘伸展位でHPは手部、3)立位、肘伸展位でHPは手部とし、Suspension point(以下、SP)はHPより遠位部に設置した。また、各1回のSET運動を10秒とし、各5回施行した。評価方法はSET前後で片脚立位、Functional reach test(以下、FRT)、Timed up and go test(以下、TUG)、Functional balance scale(以下、FBS)を実施した。片脚立位、FRT、TUGは各2回実施し、その平均値を代表値とした。また、それらをSET前後で比較検討を行った。
【結果】
 片脚立位:左側下肢(SET前2.6±0.96秒/SET後4.8±1.57秒)、右側下肢(SET前1.95±0.73秒/SET後8.1±1.3秒)、FRT:(SET前26.6±3.4cm/SET後35.2±2.0cm)、TUG:(SET前9.73±0.32秒/SET後8.22±0.14秒)、FBS:(SET前44点/SET後50点)
【考察】
 SETを施行した結果、全てのバランス機能検査の改善を認めた。本症例はweak linkを基準とした運動負荷で施行したことで、四肢末梢が接する外部対象物からの反作用やkinetic link systemにより各体節の連鎖的な動きに影響を与え、全身の筋群を強く収縮させることが可能になったと考える。これらは常に静的平衡状態と動的平衡状態の両者間で平衡を保つ際に生じており、繰り返し行うことで主に体幹に対する知覚運動制御が働いたと考える。その結果、安定性の限界の増大による前方不安定の改善へとつながり、FRT、TUG等の重心移動や動作移動を伴うバランス機能の有意な向上を認めたと考える。これらより、バランス機能向上を図ることが可能となり、日常生活においても家事動作や床へのしゃがみ込みが可能になったと考える。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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