九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 339
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高次脳機能障害患者の自動車運転再開への取り組み
*深迫 千秋久木野 智子梅本 昭英西木場 美美益山 真紀中村 美穂馬場 博己中村 浩一郎
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抄録

【はじめに】
 今回、失語症・軽度注意障害の患者の在宅復帰後の自動車運転に備えて、施設内実車訓練及び自動車学校と協力し運転適正評価・自動車学校教習を行ったので報告する。
【患者概要】
 症例は70歳代男性。Wernicke失語、Br.-Stageは上下肢・手指ともにVI。
ADL:自立 FIM:118点(減点項目:理解、表出、問題解決、記憶)
ニード:自動車運転をしたい(入院前の移動手段は自動車が主体)
高次脳機能評価: かなひろいテスト、TMT-A・B、コース立方体テスト、Rey複雑図形テストの各項目を評価し、加藤らによる運転能力に関する研究に基づいて判定した。
【敷地内実車訓練】
 机上における評価を基に、自動車運転上の注意点を口答で説明し,入院後4週目で作業療法士(以下、OT)が助手席に同乗し、前進、右左折、車庫入れ、坂道発進と段階的に施設内実車訓練を開始した。
 施設内実車訓練の評価としては、「運転操作」、「対向車への注意」を注目動作とした。開始約4週間は片手運転や接触、後方車の確認不足とギア・ハンドル操作の間違いが認められた。また、急な対向車や後方車に対する対応が遅く、複数の判断を要する状況時の対応に口答指示が必要であった。
 施設内実車訓練6週頃より、指摘項目が次第に減少し、施設内実車訓練開始後11週の時点で自動車学校での評価・実車教習を実施した。
【自動車学校】
 自動車学校での評価としては、運転適性検査を行った。
 結果は、信号や注意の標識に反応が遅く、不慣れな状況では対応にムラがあるといった注意の配分や複数作業にやや注意が必要と判定された。
 次に、教官が同乗しての判定と教習を実施した。
運転技術については、指摘項目はなく、複数作業時の注意・確認の不足が指摘されたが、その程度は年齢相応で、自動車の操作・危険回避において問題とならず、公道においても運転問題なしと判断された。
【まとめ】
 高次脳機能障害者における自動車運転は、運転の適否を含めその判断は困難を伴う。
 今回の症例においては、施設内実車訓練実施後に自動車学校での評価・教習を実施した。
 自動車学校と連携したことで運転技術の再確認や運転中の細かい注意点がわかり、さらに詳細点までフィードバックできたと考える。
 高次脳機能障害者の自動車運転に向けて、短時間で実施、評価される机上検査のみでなく、長時間の行動評価を加えたことで症例の動作・注意力等の再確認へとつながった。
 今後も自動車学校等との連携を図り、在宅復帰及び復帰後の活動範囲拡大につなげる活動を継続していきたい。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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