九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 5
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脳動静脈奇形術後の認知神経リハビリテーション
上肢到達運動に焦点をあてたケーススタディ
*池田 耕治松原 誠仁増田 安至松田 隆治宮城 大介坂本 勝哉中薗 寿人
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抄録

【目的】
 脳動静脈奇形(以下、AVM)は、脳の血管が動脈と静脈の異常吻合を生じている先天性疾患であり、若年者のクモ膜下出血の原因として重要である。本患者は、左皮質下出血として発症し、右片麻痺を呈した。
 本研究では、発症後入院直後からリハビリテーション(以下、リハ)を経験したが、退院後運動機能は高いにも関わらず、利き手使用が著しく少なかった患者に対し、新しい理論のもと認知神経リハビリテーション(以下、NCR)を施行し良好な結果を得たので報告する。
【方法】
 対象は、2008年12月某日にAVMを発症した20歳男性である。入院後、手術、リハを実施した。入院時のBr.Stageは、上肢-手指-下肢共に1、退院時は6に改善した。感覚障害が重度であった。
 『認知理論』に基づき、『認知問題』を構築し、患者に体性感覚による形状認識の解答を求めた。
1)セラピストが他動的に患者の上肢を動かし、どの関節が動いているのかたずねた。
2)そのとき関節の動きの開始、終了や方向をたずねた。
3)次に●▲■のタブレットを使用し、セラピストが他動的に患者の上肢(肩関節中心)を動かした。
【説明と同意】
 当学院倫理委員会の規程に基づき、本研究に対する内容,個人情報管理,目的以外には測定結果を公表しないことを口頭にて説明し同意を得た.
【結果】
1)患者の上肢深部感覚(特に、位置覚、運動覚)は向上した。
2)到達運動時の手の速度は向上し、速度へのセグメントの貢献を増加させた。
3)到達運動の間、手の速度への体幹上部動きは減少し、より安定した運動になった。
【考察】
 NCRは、1970年代イタリアで神経科医のCalro Perfetti が提唱した治療システムであり、運動を身体が外部環境との関係を築くための手段としている。
NCRでは治療の本質を「自らの能動的な探索によって自己身体と環境との相互作用によって情報を選択し,段階的に組織化していく過程」と考えている。治療がそれを経験する患者にとって,自らの学習となるよう “認知問題→知覚仮説→解答”という状況を作り、『認知過程(知覚・注意・記憶・判断・言語)』に介入している。身体と環境との相互作用には治療媒介として「道具」を介在させている。
 本患者は、退院時機能的には良好だったにも関わらず日常的使用はなかった(補助手)。しかし、NCRを導入後明らかな改善を認めた(実用手)。この理由としては、以下の3点が考えられる。
1)患者が自己の身体を(再)認識した。
2)再認識した身体と環境(道具)との相互作用により身体スキーマが構築された。
3)知覚と運動の連関が強まり、必要な情報から運動を作ることが可能となった。
 すなわち、これらは学習である。NCRでは、学習の本質が認知過程の組織化によりもたらされるとするならば、あらゆる機能の回復は『病的状態からの学習』として捉えている。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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