九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 51
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重度の失調症を示す子どもの食事動作向上に向けた机「机ティ」導入の試み
*野島 麻裕興呂木 祐子藤本 茂雄野尻 麻希増岡 鮎美平田 好文大隈 秀信浪本 正晴永井 邦子堀尾 愼彌
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キーワード: 失調症, 食事動作,
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抄録

【はじめに】
今回、両聴神経鞘腫術後に四肢体幹の強い失調を呈し、ADL全介助である児を経験した。本児に合った机(以下:机ティ)を作製し、食事動作に関連した課題練習時及び病棟での食事場面へ導入した事により、食事動作向上が見られたため以下に報告する。尚、本人・家族には本報告に関し十分説明し、同意を得ている。
【症例紹介】
9歳女児、聴神経鞘腫術後。障害名:失調症、右片麻痺、ADL障害。術後CTにて小脳出血有り。1)STEF:実施不可能。2)鼻指テスト:失調強く(右>左)、測定障害あり。3)Chailey姿勢能力発達レベル:床上座位2、椅子座位2(四肢体幹の急激で不規則な動揺により、座位保持装置なしでは座位保持困難で、上肢の保護伸展反応も乏しいため頭部から転倒し非常に危険な状態であった)。4)食事動作:FIM[34/126(食事:1)]座位保持装置上に体幹をベルトにて固定され、全介助で食べていた。5)WISC-_III_(言語性のみ):VIQ85。父親のNeeds:食事・排泄が一人で出来るようになって欲しい。
【方法】
自発的な食事を促すために、食事姿勢を検討した。本児の上肢操作を阻害する要因として、下肢の過剰運動、体幹・頭部の不安定性、後方に重心が移動した際姿勢コントロールが不能になる事が挙げられた。この3点に注目し、検討した結果、割り座で机に前にもたれる姿勢が最も上肢の操作性が上がった。よって、この姿勢を再現すべく机ティを作製した。机ティは、体幹サポート(接触支持面の増加)・下顎サポート(頭部安定性向上)・右上肢で把持するグリップ(末梢安定性向上)が装着されており、割り座で臀部に枕を敷き(下肢の過剰運動抑制)使用するものである。食事動作に関連した課題練習時及び病棟の食事場面で机ティを導入し、1ヶ月半経過を追った。
【結果】
開始時と比べ3)は床上座位3、椅子座位3、4)はFIM[62/126(食事:3)]となり、机ティ上on elbow支持、右上肢で食器を押さえる、左手にてすくう等の食事動作が向上し、半分は自力で摂取可能となった。
【考察】
小脳性運動失調においては、安定した物に触れたりする事で運動出力を制限し、運動失調症状をコントロールする事ができると報告されている。今回作製した机ティを用いる事で、体幹・下顎サポートと床上にしっかりとした支持面を得、適切な姿勢調整が可能となり、それにより運動失調の出現を抑えた上肢操作の再学習が促されたのではないかと考える。机ティは、安価で作製容易、持ち運び可能で親でも簡単に設定でき、装着感や見た目も本児の意見を取り入れたため、病棟でも積極的に使用できた。反面、運用し易さを優先したため、本児の運動失調を抑えるには若干強度・重さの不足があった。その点と、本児の状態の変化を考慮した改良が今後の課題と言える。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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